判旨
判決に影響を及ぼす法令の違反がある場合であっても、被告人の情状や事案の内容に照らし、宣告刑が不当に重いといえないときには、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
問題の所在(論点)
判決に影響を及ぼす法令適用の誤り(誤った罰則の適用)がある場合において、常に刑訴法411条による破棄を要するか。特に、宣告刑自体が事案に照らして不当に重くない場合の破棄の要否が問題となる。
規範
最高裁判所は、判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある場合であっても、事案の内容、被告人の前科、家族関係等の諸事情を総合考慮し、宣告刑が不当に重いといえないときは、刑訴法411条の「判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」には当たらないと判断する。
重要事実
第一審判決は、被告人が日本刀2振を不法に所持した事実を認定しながら、本来適用すべき銃刀法31条の3第1号(3年以下の懲役等)ではなく、法定刑がより重い同法31条の2第1号(5年以下の懲役等)を適用した。原判決もこの第一審判決を是認した。弁護人は量刑不当を理由に上告した。
あてはめ
本件では、日本刀の所持に対し、けん銃等の所持に関する重い法定刑の規定を適用しており、法令適用の誤りが判決に影響を及ぼしていることは明らかである。しかし、記録によれば、被告人の前科や家族関係、その他一切の事情を考慮すると、実際に言い渡された宣告刑は、正しい罰則(3年以下の懲役等)の範囲内においても不当に重いものとはいえない。したがって、誤りはあるものの、これを是正しないことが著しく正義に反するとは評価できない。
結論
上告棄却。法令適用の誤りが判決に影響を及ぼす場合であっても、宣告刑が不当に重いといえない限り、刑訴法411条による破棄はなされない。
実務上の射程
事件番号: 昭和43(あ)1521 / 裁判年月日: 昭和44年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決言渡日に施行された改正刑法を適用せず、旧法を適用して併合罪の処理を行ったことは法令の適用誤りにあたるが、原判決を破棄しなくても著しく正義に反するとまではいえない場合には、刑訴法411条による職権破棄を要しない。 第1 事案の概要:被告人は複数の罪に問われ、原判決が言い渡された当日、併合罪の規定…
刑訴法411条に基づく職権破棄の裁量的性格を具体化した判例である。答案上は、法令違反や事実誤認が「判決に影響を及ぼすべき」ものであったとしても、直ちに破棄されるわけではなく、「著しく正義に反するか」という最終的な適法性の評価が必要であることを説明する際に引用する。
事件番号: 昭和25(あ)1217 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑訴法411条は、上告理由を定めたものではなく、最高裁判所が職権によって原判決を破棄できる事由を定めた規定である。 第1 事案の概要:被告人は食糧管理法違反等の罪で起訴され、第一審および控訴審で有罪判決を受けた。弁護人は上告審において、第一審判決の併合罪(刑法47条)の適用に関し、どの罪を最も重い…
事件番号: 昭和43(あ)244 / 裁判年月日: 昭和44年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審が第一審判決を破棄して自ら有罪判決を宣告する場合、独自の判断により量刑を行うことができる。その際、控訴趣意に含まれる量刑不当の主張に対して個別の判断を示さなくても違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人Bの第一審判決につき、控訴審(原審)は法令違反があるとしてその全部を破棄した。控訴審は…
事件番号: 昭和29(あ)548 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】没収の根拠法条の適用に誤りがある場合でも、当該物件が他の法条に基づき適法に没収し得るものであれば、直ちに判決に影響を及ぼすべき著しい法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は銃砲刀剣類等所持取締令違反等の罪に問われ、原審は証拠物件である短刀一振を同令30条に基づき没収した。しかし、当該短…
事件番号: 昭和26(あ)470 / 裁判年月日: 昭和27年12月18日 / 結論: 棄却
所論の将校指揮刀が仮りに全然刃を有しない単に刀剣の形を持つた鉄片に鍍禁したに過ぎないもので銃砲等所持禁止令にいわゆる刀剣類に属さないものであるとしても、原審の是認した第一審判決によれば被告人は判示多数の日本刀と共に所論の将校指揮刀を所持したものとして所罰されたものであつて、右指揮刀所持の点は判示全犯行に対比して極めて軽…