判旨
公判期日における検察官の起訴状朗読および裁判長の被告人に対する黙秘権告知は、公判調書の必要的記載事項ではない。したがって、調書に記載がないことのみをもって、直ちにそれらの手続が履践されなかったと認めることはできない。
問題の所在(論点)
公判調書に刑訴法291条所定の起訴状朗読および黙秘権告知の記載がない場合、これらの手続が履践されなかったと判断すべきか。公判調書の記載事項と手続不履行の認定の成否が問題となる。
規範
刑事訴訟規則44条1項は公判調書の必要的記載事項を定めているが、検察官による起訴状の朗読(刑訴法291条1項)および裁判長による黙秘権の告知(同条2項)はこれに含まれていない。ゆえに、公判調書にこれらの手続に関する記載が欠けている場合であっても、その事実のみから当然に当該手続が不履践であったと推認されるものではない。
重要事実
被告人が憲法31条違反を主張して上告した事案。弁護人は、公判期日において検察官の起訴状朗読および裁判長の黙秘権告知が行われたことを示す記載が公判調書に存在しないことを根拠に、適正な手続が履践されなかったと主張した。
あてはめ
刑事訴訟規則44条を確認すると、公判期日における起訴状朗読や黙秘権告知の事実は、公判調書の必要的記載事項として列挙されていない。記載が義務付けられていない以上、調書上にその旨の記録がないからといって、直ちに憲法31条や刑訴法291条に違反するような手続上の欠陥があったと断定することはできない。本件においても、記載の欠如以外の事情から不履践を裏付ける事実は見当たらない。
結論
公判調書に起訴状朗読等の記載がないことをもって手続不履践と認めることはできず、憲法31条違反の主張は前提を欠くため、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事手続の適法性を争う際、公判調書の記載を根拠とする場合には、その事項が刑事訴訟規則44条の必要的記載事項に該当するかを確認する必要がある。任意的記載事項については、記載がないことのみを理由に不適法を導くことは困難であり、他の証拠や事情による立証が求められることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和28(あ)5212 / 裁判年月日: 昭和30年8月26日 / 結論: 棄却
本件公判調書は昭和二七年二月一日改正施行された刑訴規則四四条の規定に従い作成されたものであるから、同条の必要的記載事項以外の事項はその記載が省略されているのである。従つて起訴状の朗読及び刑訴二九一条二項の手続が行われた旨公判調書に記載がないのは両手続が適法に履践されたと推認すべきであり、ことに右両手続の行われなかつたこ…
事件番号: 昭和29(あ)621 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に被告人の出頭に関する明記がない場合であっても、原審の判断が相当である限り、刑訴法上の上告理由や職権破棄事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人両名の上告趣意において、公判調書に被告人等が出頭した旨の明記がないことが論難された。弁護人はこの点を捉えて違憲および刑事訴訟法違反を主張した…