領置の際、提出者が「被害者に返して下さい」、または「私はいりません」もしくは「いりません」と申し出ている場合に、その申出が錯誤に基づいたものと認めるべきなんらの証跡もないときは、その申出の撤回を許すべきではない。
押収物に関する所有権および還付請求権放棄の意思表示の撤回が許されないとされた事例
刑訴法123条1項,刑訴法221条,刑訴法222条,刑訴法430条
判旨
領置物件につき、所有者が「いりません」等の意思表示をして権利を放棄した場合、その意思表示が錯誤に基づく等の特段の事情がない限り、還付請求権は消滅し、その後の撤回も許されない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法に基づき領置された物件について、所有者が還付を不要とする意思表示を行った場合、当該物件の還付を求める権利は消滅するか。また、その意思表示の撤回は認められるか。
規範
捜査機関により領置された物件について、所有者が任意に還付を求めない旨の意思表示(権利放棄)をした場合、当該意思表示が錯誤に基づいたものと認められる等の特段の事情がない限り、還付請求権は確定的に消滅する。また、一度なされた権利放棄の申出は、原則として撤回することができない。
重要事実
申立人は、小型懐中電灯等の領置物件について還付を求めて特別抗告を申し立てた。しかし、記録によれば、一部の物件は既に申立人に還付されていた。一方、残りの未還付物件について、申立人は領置の際、「被害者に返して下さい」「私はいりません」「いりません」との申し出を行っていた。
事件番号: 昭和43(し)91 / 裁判年月日: 昭和44年8月27日 / 結論: 棄却
司法警察員が押収物を被害者に還付した後、当該押収物が他に売却、搬出され、被害者方に存在しなくなつた場合には、当該被害者還付処分の取消を求める準抗告は、実益を欠き、不適法である。
あてはめ
本件において、申立人が発した「いりません」等の文言は、領置物件に対する所有権ないし還付請求権を放棄する明確な意思表示である。この申出が錯誤に基づいたことを裏付ける証跡は認められず、真意に基づくものと判断される。このような明確な放棄の意思表示がなされた以上、のちにこれを翻して撤回することを許すべき理由はない。したがって、申立人が還付を求めることができる物件は、既に還付済みのものを除き、存在しないこととなる。
結論
未還付物件について、申立人はもはや還付を求めることはできない。したがって、還付請求を前提とする憲法違反等の主張は前提を欠き、抗告は棄却される。
実務上の射程
領置(刑訴法221条)された証拠物の所有権放棄の有効性に関する判断基準を示す。実務上、被疑者が領置の際に還付不要の意思を示した場合は還付請求権が消滅するが、答案上は「錯誤の有無」や「撤回を認めるべき特段の事情」を検討する際の枠組みとして利用できる。
事件番号: 昭和44(し)70 / 裁判年月日: 昭和44年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の特別抗告(刑訴法433条)において、違憲主張が実質的な法令違反にすぎない場合や、判例違反の具体的摘示がない場合は、正当な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し最高裁判所へ特別抗告を申し立てた。抗告の趣旨において憲法違反を主張したが、その内容は実質的に単なる法令違反…
事件番号: 昭和62(し)15 / 裁判年月日: 平成2年4月20日 / 結論: その他
刑訴法一二三条一項による押収物の還付は、被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してすべきである。
事件番号: 昭和52(し)114 / 裁判年月日: 昭和54年12月12日 / 結論: 棄却
押収物が検察官の歳入編入処分により国の一般財産と混和し特定性を失つたときは、当該押収物の還付は不能である。
事件番号: 平成1(し)76 / 裁判年月日: 平成元年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】押収物の還付が既になされた場合、当該押収処分の取消しを求める準抗告は申立ての利益を欠き、裁判をする実益がないものとして棄却される。 第1 事案の概要:司法警察員は、被告発人(申立人代表者)から物件の任意提出を受けて押収し、また捜索差押許可状に基づき物件を押収した。申立人はこれらの押収処分の取消しを…