刑訴法一二三条一項による押収物の還付は、被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してすべきである。
刑訴法一二三条一項による押収物還付の還付先
刑訴法123条1項,刑訴法222条1項
判旨
押収物の還付(刑訴法123条1項)は、原則として被押収者に対してなされるべきであり、被押収者が還付請求権を放棄した場合や還付不能な場合等の例外を除き、実体法上の権利者であっても被押収者以外に還付することは許されない。
問題の所在(論点)
刑訴法123条1項に基づき、留置の必要がなくなった押収物を還付すべき相手方は誰か。実体法上の権利関係や法益保護の必要性を理由に、被押収者以外の者に還付することは許されるか。
規範
刑訴法123条1項にいう還付は、押収物につき留置の必要がなくなった場合に、押収を解いて原状を回復することをいう。したがって、①被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合、または②被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してなされるべきである。
重要事実
申立会社は、宗教法人から国宝である本件梵鐘を譲り受けたとして搬出・保管していたが、文化遺産隠匿罪の容疑で捜査が開始された。警察は、本件梵鐘を保管していた美術館長(被押収者)から差し押さえ、文化財保護法に基づき管理団体に指定された京都府に仮還付した。その後、検察官は被疑者を不起訴としたが、本件梵鐘を申立会社に戻すと散逸のおそれがある等の事情を考慮し、被押収者ではない京都府に本還付した。これに対し、申立会社が還付処分の取消しを求めて準抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和58(す)20 / 裁判年月日: 昭和58年4月28日 / 結論: 棄却
一 公判不提出の押収物については、押収の基礎となつた被告事件がどの裁判に係属している場合であつても、特段の事情のない限り、現にその物の押収を継続している検察庁の検察官が還付等の処分をすべきである。 二 検察官の保管にかかる公判不提出の押収物に関する還付等の処分に対する刑訴法四三〇条一項所定の準抗告は、右押収の起訴となつ…
あてはめ
還付制度の趣旨は押収前の占有状態を回復させる「原状回復」にある。本件において、被押収者は美術館長であり、本来は同人に還付して占有を回復させるべきである。京都府への還付が正当化されるためには、被押収者の権利放棄(①)や還付不能(②)といった特段の事情が必要となる。原決定は、文化財保護という法益を優先し、申立会社への返還による散逸リスク等を考慮して被押収者以外への還付を認めたが、これらは上記例外事由には当たらない。したがって、被押収者でない京都府に対する還付処分は違法である。
結論
被押収者でない京都府に対してなされた還付処分は違法であり、これを取り消すべきである。
実務上の射程
還付の相手方は原則として「被押収者(占有を奪われた者)」であることを明快に示した。実務上、捜査機関が所有権の帰属争いに介入することを否定し、手続的な原状回復を優先する立場を鮮明にしている。答案上は、押収物が還付される際の相手方の特定において、実体法上の所有者ではなく、差押え時の占有者(被押収者)を基準とする際の強力な根拠となる。
事件番号: 令和7(し)177 / 裁判年月日: 令和7年11月10日 / 結論: その他
刑訴法430条の準抗告裁判所は、捜査機関の処分の当否を判断するに当たり、捜査機関が当該処分当時に収集していた資料のみならず、その当時の事実に関する資料であって、その後に捜査機関が収集し、又は裁判所に提出されたものについても考慮に入れるべきである。
事件番号: 令和4(し)25 / 裁判年月日: 令和4年7月27日 / 結論: 棄却
捜査機関が押収した各押収物には、被押収者らに対する各準強制性交等被疑事件等に関する動画データ等が記録されており、同動画データ等は、被害者とされた女性らに無断で撮影又は録音されたもので、これらが流布された場合には、同人らの名誉、人格等を著しく害し、同人らに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性が…
事件番号: 昭和44(し)70 / 裁判年月日: 昭和44年10月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の特別抗告(刑訴法433条)において、違憲主張が実質的な法令違反にすぎない場合や、判例違反の具体的摘示がない場合は、正当な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人は、原決定に対し最高裁判所へ特別抗告を申し立てた。抗告の趣旨において憲法違反を主張したが、その内容は実質的に単なる法令違反…
事件番号: 昭和52(し)114 / 裁判年月日: 昭和54年12月12日 / 結論: 棄却
押収物が検察官の歳入編入処分により国の一般財産と混和し特定性を失つたときは、当該押収物の還付は不能である。