上訴の放棄または取下をした者は、その事件についてさらに上訴をすることができないものとしている刑訴法第三六一条が違憲でないことは、昭和二四年(つ)第九六号同二五年四月二一日大法廷決定(刑集四巻四号六七五頁)の趣旨に徴し明らかである。
刑訴法第三六一条の合憲性
刑訴法361条,刑訴法362条
判旨
上訴の放棄または取下げをした者は、その事件についてさらに上訴をすることができないとする刑事訴訟法361条の規定は、憲法32条および37条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
上訴の放棄または取下げをした者が、その後に同一事件について再度の不服申し立てを行うことを禁止する刑事訴訟法361条の規定は、憲法32条(裁判を受ける権利)および憲法37条1項(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)に違反し、違憲ではないか。
規範
上訴権の放棄または取下げという自発的な意思表示によって上訴権を消滅させた者に対し、同一事件について再度の客観的な不服申し立てを制限することは、適正な手続および裁判を受ける権利を侵害するものではなく、合憲である。
重要事実
抗告人は、刑事事件において上訴の放棄または取下げを行った後、再び当該事件について上訴を申し立てた。原決定は、刑事訴訟法361条に基づき、再度の不服申し立てを認めない判断を下した。これに対し抗告人は、同条が裁判を受ける権利(憲法32条)および刑事被告人の公判受ける権利(憲法37条1項)に違反すると主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和28(し)68 / 裁判年月日: 昭和28年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条は、国民が裁判所以外の機関によって終局的に裁判されないことを保障するものであり、訴訟法が定める特定の管轄権を有する裁判所で裁判を受ける権利までを保障するものではない。 第1 事案の概要:弁護人が、被告人の受ける裁判について、訴訟法上の管轄権等に関する違法があるとして、憲法32条違反を理由…
あてはめ
判決文によれば、上訴権を自ら放棄・取下げした者に再度の不服申し立てを認めない刑事訴訟法361条の合憲性は、既に最高裁判所大法廷(昭和25年4月21日決定)において示された趣旨に照らして明らかであるとされる。被告人の自発的意思に基づく手続の終了を尊重し、訴訟関係の早期安定を図る規定は、憲法上の各条項が保障する裁判を受ける権利の本質を損なうものとはいえない。
結論
刑事訴訟法361条は合憲であり、上訴を放棄または取り下げた者が再び上訴をすることはできない。本件抗告は理由がないため棄却される。
実務上の射程
刑事訴訟法上の「上訴権放棄の効果の不可逆性」を憲法的観点から肯定する射程を持つ。答案上は、一度なされた有効な放棄・取下げの撤回が認められないことの憲法的正当化根拠として利用できる。
事件番号: 昭和28(し)10 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条の裁判を受ける権利の侵害を主張しても、その実質が単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、刑訴法405条の特別抗告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対し、憲法32条(裁判を受ける権利)の違反を理由として特別抗告を申し立てた事案。しかし、その主張の具体的な内容は、原審の…
事件番号: 昭和29(し)28 / 裁判年月日: 昭和29年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復請求を棄却した決定は、刑事訴訟法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には該当せず、特別抗告の対象とはならない。 第1 事案の概要:抗告人は、名古屋高等裁判所が昭和29年5月21日に行った上訴権回復請求を棄却する決定に対し、最高裁判所に特別抗告を申し立てた…
事件番号: 昭和28(す)536 / 裁判年月日: 昭和28年11月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所がなした上告棄却の決定に対しては、抗告をすることが許されないだけでなく、これに代わる異議の申立てをすることも許されない。 第1 事案の概要:申立人は、最高裁判所がなした上告棄却の決定(刑訴法414条、386条2項)に対し、不服として異議の申立てを行った。なお、具体的な事案の内容については…
事件番号: 昭和28(す)163 / 裁判年月日: 昭和28年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避の裁判が憲法32条、37条1項に違反するという主張は、独自の憲法解釈に基づかない限り、実質的には訴訟法違反を主張するものにすぎず、特別抗告の理由とはならない。裁判官の構成を含め、法に従った裁判所の判断は憲法上の裁判を受ける権利を保障しているものと解される。 第1 事案の概要:本件は、裁…