本件起訴状記載の公訴事実を客観的に観察すれば、本件は被告人個人の犯罪行為を起訴した趣旨と解されること所論のとおりであるが、その事実記載の方法および第一審裁判所における審理の経過に徴し、これを被告人が法人の機関としてその業務に関して行なつたものと認定するには、訴因変更の手続を経ることを要しないものと解するのを相当とするから、第一審判決には審判の請求を受けた事件について判決をせず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法はないとする原判決の判断は、その結論において正当である。
訴因変更の手続を要しないとされた事例
刑訴法312条,刑訴法378条3号,出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律5条1項,出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律11条1項2号,出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律13条1項
判旨
被告人個人の犯罪行為として起訴された事実を、法人の機関としてその業務に関して行ったものと認定する場合、訴因変更の手続を経ることを要しない。
問題の所在(論点)
被告人が「個人の資格」で行ったとされる犯罪事実を、「法人の機関」として行った事実と認定する場合、刑訴法312条1項の訴因変更手続が必要か。
規範
公訴事実の記載方法及び審理の経過に照らし、被告人の行為の態様(個人としての行為か、法人の機関としての業務上の行為か)の差異が、審判の対象となる基本的事実関係に実質的な変更を及ぼさない場合には、訴因変更の手続を要しない。
重要事実
検察官は、起訴状において被告人個人の犯罪行為として公訴事実を記載した。しかし、第一審裁判所は審理の結果、被告人が法人の機関としてその業務に関して当該行為を行ったものと認定した。弁護人は、このような認定は訴因変更の手続を経ずになされたものであり、審判の請求を受けない事件について判決をした違法(不告不理の原則違反)があると主張して上告した。
事件番号: 昭和33(あ)1571 / 裁判年月日: 昭和36年9月8日 / 結論: 棄却
出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第二条、第一一条は、憲法第一四条に違反しない。
あてはめ
本件起訴状に記載された公訴事実を客観的に観察すれば、被告人個人の犯罪行為を起訴した趣旨と解される。しかし、当該事実の記載方法および第一審における審理の経過を総合すれば、被告人が法人の機関として業務に関して行ったと認定することは、起訴された事実の範囲内にあるといえる。したがって、被告人の防御に実質的な不利益を及ぼすような態様の変更とは認められず、訴因変更の手続は不要である。
結論
被告人個人の犯罪として起訴された事実を法人の機関としての行為と認定するに際し、訴因変更の手続を経る必要はない。したがって、原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する基本的判例である。裁判所が訴因と異なる事実を認定する際、その差異が犯罪の成否や罰則に影響を与えず、被告人の防御の観点からも無視できる程度の「態様の相違」にとどまる場合には、手続の簡素化の観点から訴因変更なしでの認定を許容する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和62(あ)1092 / 裁判年月日: 昭和63年6月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決後の法改正によって処罰規定に変更があった場合でも、判決に影響を及ぼすべき明らかな法令違反が認められない限り、最高裁判所は刑訴法411条を適用して原判決を破棄する必要はない。 第1 事案の概要:第一審判決を破棄自判した原判決において、特定の犯行(昭和58年9月9日実施)に対し、本来は改正前の「出…
事件番号: 昭和35(あ)1803 / 裁判年月日: 昭和35年11月16日 / 結論: 棄却
出資の受入、預り金及び金利等の取締に関する法律第七条第一項に「業として」とあるのは、反覆継続の意思を以て為す場合をいうのであつて、利益を得る目的を有することを必要としないと解した原判決の認定は正当である。
事件番号: 昭和43(あ)2408 / 裁判年月日: 昭和45年11月10日 / 結論: 棄却
金融機関の役員が、その地位を利用し、自己又は当該金融機関以外の第三者の利益を図るため、金員の貸付をなす行為は、その貸付資金が当該役員個人のものであつても、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律三条の規定に違反する。
事件番号: 昭和52(あ)186 / 裁判年月日: 昭和52年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】出資法2条の預り金禁止規定および同法11条1項の罰則規定は、憲法29条、13条、14条、22条のいずれにも違反せず、同法2条の規定は不明確とはいえない。 第1 事案の概要:被告人らは、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(出資法)2条1項、2項に違反して預り金業務を行ったとして起訴され…