判旨
公職選挙法221条3項の事後買収罪における「候補者」には、立候補届出前の者も含まれるが、立候補届出前の行為に同項を適用した一審判決の法令適用に誤りがあるとしても、併合罪加重の結果として処断刑に変更がなく事案の内容に照らして不当でなければ、判決に影響を及ぼすべき違法とはならない。
問題の所在(論点)
立候補届出前の行為に対して、公職の候補者であることを前提とする公職選挙法221条3項を適用したことが、判決に影響を及ぼすべき法令の違反(刑訴法411条1号)にあたるか。
規範
判決に影響を及ぼすべき法令違反(刑訴法411条1号)の有無は、誤った法令適用がなされた場合であっても、それが実質的に被告人の不利益となり、結論(処断刑の範囲や具体的刑期)を左右するものであるか否かによって判断される。特に併合罪の事案において、一部の罪の法令適用に誤りがあっても、他の適法な罪による併合罪加重の範囲内であり、かつ事案の性質上不当といえない場合は、判決を破棄すべき違法にはあたらない。
重要事実
被告人は公職の候補者としての立候補届出をするより前の段階において、事後買収にあたる行為(公職選挙法221条3項違反に問われた行為)を行った。第一審判決は、この届出前の行為に対しても同条3項を適用して有罪とした。しかし、本件には別途、立候補届出後に行われ適法に同条項が適用された罪も存在し、第一審はこれらを併合罪として加重した刑を言い渡していた。原判決(二審)はこの法令適用の点に触れずに上告を棄却した。
あてはめ
第一審判決が立候補届出前の行為に公選法221条3項を適用した点には法令適用の違法が認められる。しかし、被告人には立候補届出後に行われた別の同条項違反の罪(第一の二の(一))も成立しており、第一審はこれと併合罪として処断している。この場合、違法な一部を除去して再計算したとしても、有効な罪に基づく併合罪加重によって得られる処断刑の範囲に変更は生じない。また、本件の事案の内容に照らしても、右の違法を是正しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
第一審判決の法令適用には一部誤りがあるが、処断刑に変更を来さず、事案の内容に徴しても判決に影響を及ぼすべきものとは認められないため、原判決がこれに触れず控訴を棄却したことは正当である。
実務上の射程
刑事訴訟法上の「判決に影響を及ぼすべき法令の違反」の判断において、形式的な適用誤りがあっても、実質的な処断刑の範囲や具体的刑罰の妥当性に影響がない場合には、破棄理由とはならないことを示す実務上の指針となる。
事件番号: 昭和35(あ)1176 / 裁判年月日: 昭和35年10月28日 / 結論: 棄却
正式の立候補届出以後、公職の候補者、選挙運動の総括主宰者または出納責任者が公職選挙法第二二一条第一項第一号所定の行為をした事実を認定しながら、法令の適用として同条項のみを掲げ同条第三項を適用しない違法があつても、未だ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとはいえない。