判旨
前科を量刑上の判断材料として参酌することは、同一の犯罪事実について重ねて刑事上の責任を問うものではないため、憲法39条後段の二重処罰の禁止には違反しない。
問題の所在(論点)
刑事裁判の量刑判断において、被告人の前科を参酌することが、憲法39条後段が禁止する二重処罰(一事不再理の原則)に抵触するか。
規範
憲法39条後段が禁止する「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われることはない」との原則は、既に確定判決を経た犯罪事実について再度処罰することを禁ずる趣旨である。これに対し、後発の犯罪に関する量刑判断において、被告人の性格、素行、境遇等の情状の一環として前科を参酌することは、前科に係る犯罪を再度処罰するものではないため、同条に違反しない。
重要事実
被告人が刑事事件において有罪判決を受けた際、裁判所が被告人の前科を量刑上の情状として参酌した。これに対し、弁護人は、判決謄本に記載された過去の犯罪事実を再度評価し、量刑上考慮することは、実質的に同一の犯罪について二重に処罰するものであり、憲法39条後段に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において第一審判決は、単に被告人の経歴としての前科を量刑の判断材料としたにすぎず、前科に係る犯罪事実そのものについて改めて有罪・無罪の評価を下したり、重ねて刑罰を科したりしたものではない。これは被告人の反社会的性格や再犯のおそれを評価するための情状判断にすぎないと解される。したがって、過去の処罰事実を現行犯行の責任の程度を測る資料とすることは、憲法が禁止する「重ねて刑事上の責任を問う」ことには当たらない。
結論
前科を量刑上参酌することは憲法39条後段に違反しないため、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
刑事実務における量刑評議の正当性を支える判例である。答案上は、二重処罰禁止の意義を「確定判決による処罰の重複禁止」と定義した上で、前科の参酌はあくまで「情状の評価」にすぎないとする論理構成で用いる。憲法上の論点のみならず、刑法の量刑論における前科の意義を論じる際の前提としても機能する。
事件番号: 昭和57(あ)554 / 裁判年月日: 昭和57年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】量刑の際に被告人の前科を悪性格の証左として参酌することは、前科に係る犯罪について重ねて刑事責任を問うものではないため、憲法39条後段の二重処罰の禁止には抵触しない。 第1 事案の概要:被告人の刑事裁判において、裁判所が量刑の判断(量刑不当の控訴趣意に対する判断)に際し、被告人の前科について判示した…
事件番号: 昭和46(あ)709 / 裁判年月日: 昭和46年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】量刑において被告人の前科を考慮することは、前科を一つの情状として斟酌するものにすぎず、憲法39条が禁ずる二重処罰には当たらない。 第1 事案の概要:被告人の控訴審判決において、裁判所は量刑不当の控訴趣意に対する判断の中で、被告人の前科等の量刑資料を勘案して量刑を決定した。これに対し、弁護人は、前科…
事件番号: 昭和46(あ)637 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】前科を量刑上の事情として参酌することは、憲法39条後段の二重の処罰の禁止に抵触しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件により起訴され、その裁判の量刑判断において、被告人に前科がある事実が参酌された。弁護人は、このように前科を量刑上参酌することは、既に処罰を受けた行為を実質的に再度処罰するもので…