判旨
不法入国した外国人に対し外国人登録法上の登録申請義務を課すことは、自己の不法入国の罪を供述させるのと同一の結果を招くものとはいえず、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
不法入国した外国人に対して、外国人登録法3条1項に基づく登録申請義務を課すことは、自己に不利益な供述を強要するものであり、憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項の自己負罪拒否特権は、刑事上の責任を追及されるおそれのある事項について供述を強要されない権利を保障するものである。行政上の義務履行として特定の事実の報告を命ずる規定が、実質的に刑事責任を追及するための手段として機能し、自己の犯罪を供述させるのと同一の結果をもたらす場合には、同条に違反する可能性がある。
重要事実
被告人は、不法に日本に入国した外国人であった。外国人登録法3条1項は、本邦に在留する外国人に対し、新規の登録申請義務を課しているが、被告人はこれを行わなかった。被告人は、不法入国者に対して登録申請義務を課すことは、自ら不法入国の事実を露呈させることになり、自己負罪拒否特権を侵害するものであると主張して争った。
あてはめ
外国人登録法上の登録申請義務は、本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確にするという行政上の目的のために課されるものである。不法入国者がこの義務を履行したとしても、それは直ちに自己の刑事犯罪(不法入国罪)を供述することと同一の結果をもたらすものとは解されない。したがって、行政上の適正な管理を目的とする登録義務の賦課は、刑事責任の追及を直接の目的とした供述の強要には当たらない。
結論
不法入国の外国人に対し外国人登録法上の登録申請義務を課すことは、憲法38条1項に違反しない。
実務上の射程
行政上の報告義務と自己負罪拒否特権の限界を示す判例である。行政目的の報告義務が刑事罰を伴う場合であっても、その目的が刑事追及に直結せず、行政管理上の必要性に基づくものであれば、憲法38条1項違反とはならない。答案上は、川崎民商事件(最判昭47.11.22)等と併せて、行政調査や報告義務の合憲性判定の枠組みとして活用する。
事件番号: 昭和53(あ)1587 / 裁判年月日: 昭和54年1月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】外国人登録法3条1項の新規登録申請義務は不法入国した外国人にも適用され、この義務の課受は自己に不利益な供述を強いるものではなく、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:不法に日本に入国した外国人が、外国人登録法3条1項に基づく新規登録の申請を行わなかった。これに対し、同法違反の罪が問われた…