判旨
労働争議に伴う行為であっても、暴力の行使を伴う場合には、相手方の不当労働行為の有無にかかわらず正当な業務行為としての正当性を欠き、違法性が阻却されない。
問題の所在(論点)
労働争議の一環として行われた行為であっても、暴力の行使を伴う場合に、憲法28条等に基づく労働基本権の保障を理由として刑法35条の正当業務行為等により違法性が阻却されるか。
規範
争議行為等の正当性は、その目的、手段、態様等の諸般の事情を総合的に考慮して判断されるが、いかなる争議の文脈においても、直接的な暴力の行使は手段の相当性を著しく欠くものとして、その正当性を肯定することはできない。
重要事実
郵政当局による団体交渉拒否が、当時の公共企業体等労働関係法4条3項に基づく不当労働行為に該当する可能性がある状況下において、被告人らは本件行為に及んだ。しかし、その態様は暴力の行使を伴うものであったため、刑事責任が問われた。
あてはめ
被告人らの所為は、郵政当局の団体交渉拒否という不当労働行為の成否を問わず、暴力の行使という客観的態様において、社会通念上許容される範囲を逸脱している。このような暴力行為は、憲法や条約が保障する団結権等の行使として正当化される余地はない。したがって、暴力という手段を選択した時点で、正当な争議行為としての枠組みを外れていると評価される。
結論
被告人らの行為は暴力の行使として正当性を認めることができず、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
労働刑法の分野において、争議行為の正当性の限界を画する射程を持つ。たとえ使用者側に不当労働行為等の非がある場合でも、「暴力の行使」は絶対的な禁止ラインとなり、違法性阻却を否定する決定的な事実となることを答案上指摘する際に用いる。
事件番号: 昭和43(あ)15 / 裁判年月日: 昭和43年10月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による団体行動であっても、暴力の行使を伴う行為については、憲法28条が保障する正当な団体行動の範囲を逸脱し、違法性が阻却されない。 第1 事案の概要:被告人両名を含む労働組合員らが、労働争議に関連する活動の過程において、暴力の行使を伴う所為(本件所為)に及んだ。被告人らは、かかる行為が憲法…
事件番号: 昭和42(あ)1053 / 裁判年月日: 昭和42年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合の行為であっても、暴力の行使に出ることは正当な団結権の行使とは認められず、労働組合法1条2項の刑事免責の対象とならない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として本件行為に及んだが、その態様は暴力の行使を伴うものであった。被告人らは、憲法28条が保障する団結権等に基づく正当な…
事件番号: 昭和27(あ)4473 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合等の活動が刑法上の正当行為(刑法35条)として違法性を阻却されるためには、その行為が憲法28条の趣旨に照らし、正当な団体交渉の目的達成のために必要かつ相当な範囲内で行われることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らの所為が刑法上の犯罪構成要件に該当する一方で、被告人側は当該行為が憲法2…
事件番号: 昭和38(あ)1052 / 裁判年月日: 昭和40年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書の「暴力の行使」に該当するか否かは、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものであるか否かによって判断される。社会通念上の限度を超えると認められる場合は、刑法上の正当行為(同法35条)としての違法性阻却を認めない。 第1 事案の概要:被告人らの原判示所為(具体的な事案…
事件番号: 昭和41(あ)1424 / 裁判年月日: 昭和43年7月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働基本権を保障する憲法28条の下においても、争議行為等に伴う暴行・脅迫等の違法な行為について正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため「やむを得ずにした行為」といえることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らは、労働争議の一環として行…