農政局干拓事務所から干拓事業の事前調査のための海底のボーリング工事を請負つた開発会社の係長らの右工事実施は、刑法上保護に価する業務であり、一方、作業船に分乗して右工事実施準備中の同人らに対し、多数の漁業協同組合員らとともに、十数隻の漁船に分乗して右作業船の廻りを巡回し、水竿等を振り廻して怒号し、遁走しようとした同船を追跡してその進路を遮り、これにとび移つて進路を指図し、被告人らの要求する港に入港させるにいたらしめた行為は、社会通念上許容せられる限度を越えるものであつて、右業務の基礎となつている干拓事業およびその実施が違憲であつたか否かは、本件威力業務妨害罪の成否または被告人らの本件行為の違法性に関する判断になんら影響を及ぼさない。
威力業務妨害罪が成立するとされた事例
刑法234条
判旨
威力業務妨害罪における「業務」は、刑法上保護に価するものである限り、その基礎となる事業等の適法性は犯罪の成否に影響しない。また、妨害行為が社会通念上許容される限度を超える場合は、正当行為として違法性が阻却されることはない。
問題の所在(論点)
1. 威力業務妨害罪の保護対象たる「業務」の基礎となる事業に違憲・違法な点がある場合、当該業務は刑法上の「業務」に含まれるか。 2. 妨害行為が憲法上の権利の行使を背景とする場合、刑法35条の正当行為として違法性が阻却されるか。
規範
威力業務妨害罪(刑法234条)における「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づき継続して従事する事務を指す。その業務が刑法上保護に価するものである限り、当該業務の基礎となっている事業の適法性や違憲性の有無は、犯罪の成否に影響を及ぼさない。また、妨害行為が正当行為(刑法35条)として違法性を阻却されるためには、当該行為が社会通念上許容される限度内のものであることを要する。
重要事実
被告人らは、長崎干拓事業に従事していたAらの業務を威力を用いて妨害した。被告人側は、当該業務の基礎となっている干拓事業自体の実施が憲法29条、22条1項、25条等に違反し違憲であること、および自らの行為は憲法21条の表現の自由等に基づく正当なものであること等を理由に、無罪を主張して上告した。
あてはめ
1. 本件におけるAらの業務は、その基礎となる長崎干拓事業の適法性・違憲性のいかんにかかわらず、刑法上保護に価する義務(業務)であると認められる。したがって、事業自体の違憲性は業務妨害罪の成否を左右しない。 2. 被告人らが行った妨害行為は、社会通念上許容される限度を超えるものである。したがって、表現の自由の行使等の側面があったとしても、刑法35条の正当行為として違法性が阻却される余地はない。
結論
本件におけるAらの業務は威力業務妨害罪の保護対象に当たり、被告人らの行為は社会通念上許容される限度を超えているため、同罪が成立する。
実務上の射程
業務の適法性と刑法上の保護の要否を切り離して考える判断枠組みとして重要である。実務上、行政処分や事業の瑕疵を理由に実力阻止を行った事案において、業務の「適法性」ではなく「保護に価するか」という観点から論じる際の根拠となる。ただし、反社会的な業務や著しく公益に反する業務については、依然として「保護に価しない」として否定される余地がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和35(あ)348 / 裁判年月日: 昭和37年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、犯人の威勢、人数、四囲の状況等からみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいい、暴行・脅迫に至らない程度の無形的な力も含まれる。 第1 事案の概要:本件事案の具体的な事実は本決定文の記載からは不明であるが、第一審および原判決は、被…