原判決は、すでに起訴猶予処分となつている所論一四個の放火事実を、本件各重過失失火罪成立の要件である注意義務の存在を認定する資料として判示したにすぎず、右一四個の放火事実について被告人に対し刑事上の責任を問うたものでないことは原判文上明らかであるから、憲法第三九条後段違反であるとの所論はその前提を欠くものである。
起訴猶予処分となつている放火の事実を重過失失火罪成立の要件である注意義務の存在を認定する資料として判示することと憲法第三九条後段
憲法39条後段,刑法117条ノ2,刑法116条,刑法108条
判旨
刑事裁判において、起訴されていない過去の犯罪事実を、現在審理中の罪における注意義務の存否を認定するための証拠資料として利用することは、憲法39条後段の二重処罰禁止の原則に抵触しない。
問題の所在(論点)
起訴されていない別罪の事実(14個の放火事実)を、当該被告人の重過失失火罪における注意義務認定の資料として用いることが、憲法39条後段の「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」とする規定に違反するか。
規範
過去の特定の犯罪事実を、被告人に対し刑事上の責任を問うための対象とするのではなく、現在起訴されている犯罪の成立要件(例えば注意義務の存否等)を認定するための証拠資料(情状または間接事実)として用いることは、憲法39条後段が禁じる二重の処罰にはあたらない。
重要事実
被告人が重過失失火罪で起訴された事案において、原審は被告人が過去に行ったとされる14個の放火事実を認定した。弁護側は、これらの事実を認定することは、既に評価された(あるいは別途刑事責任を問われるべき)事実に基いて刑を科すものであり、憲法39条後段の二重処罰禁止に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件において、原判決が14個の放火事実を判示したのは、重過失失火罪の成立要件である「注意義務の存在」を認定するための資料として扱ったにすぎない。これら14個の事実自体について、被告人に対し個別に刑事上の責任を問うたものではないことが原判決の文面上明らかである。したがって、証拠による事実認定のプロセスにおいて過去の行動が考慮されたとしても、それは新たな処罰ではないため、二重処罰の禁止という憲法上の制約には抵触しないと解される。
結論
本件での放火事実の引用は憲法39条後段に違反せず、上告を棄却する。
実務上の射程
余罪や過去の悪性格事実を、被告人の主観的態様(過失や故意)を基礎づける間接事実として利用することの許容性を示している。実務上は、犯行の反復性や特殊な経験則を導くための資料として、起訴事実以外の事情を考慮する際の違憲審査の基準となる。
事件番号: 昭和40(あ)2928 / 裁判年月日: 昭和42年6月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】焚火を原因とする火災において、第一審判決が認定した事実関係に基づき、本件焚火と火災との間の因果関係を肯定した判断は相当である。憲法違反等の主張は実質的に単なる法令違反や事実誤認の主張に過ぎず、適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が行った焚火を原因として火災が発生したとされる事案…