判旨
労働組合員による集団抗議活動に伴う行為であっても、暴力的な脅迫や強制を伴うものは、憲法28条及び労働組合法1条2項の正当な範囲を逸脱し、刑法上の違法性が阻却されない。
問題の所在(論点)
労働組合員が争議行為の一環として行った脅迫・強要行為が、労働組合法1条2項にいう「正当な行為」として刑事免責の対象となるか。
規範
憲法28条が保障する団結権・団体行動権の行使であっても、その手段が暴力的、強迫的、または他人の自由を著しく制限するものである場合には、正当な行為の限界を逸脱するものとして、労働組合法1条2項の刑事免責は受けられない。
重要事実
被告人ら組合員約80名は、使用者側が抗議状況を写真撮影したことに憤慨。被告人らは約18名と共謀して室内に乱入し、撮影者に対し「なぐるぞ」「出さなければ体の保障はせんぞ」と怒号し、そろばんを振り上げながら脅迫した。結果、義務のないフィルムの交付を強要した。
あてはめ
被告人らの行為は、多人数で室内に乱入し、殺気立った語調で身体への危害を告知する脅迫を行い、さらには打撃用具となり得るそろばんを振りかざすという暴力的な態様である。これは単なる抗議の域を超え、相手方に義務のない行為を強いる強制的な手段である。かかる暴力・脅迫を伴う行為は、争議行為に付随するものであっても、社会通念上許容される正当な団体行動の限界を明らかに超えている。
結論
被告人らの行為は正当な行為とはいえず、強要罪(または相当する罪名)が成立し、有罪とする原判決は正当である。
実務上の射程
争議行為における刑事免責の限界を画した判例。正当性判断において、行為の「態様」の暴力性・強迫性が決定的な要素となることを示しており、答案上は労働基本権の趣旨から説きつつ、具体的手段の相当性欠如を指摘する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和35(あ)2920 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による行為であっても、多数で長時間取り囲み、脅迫を用いて相手方の自由意思を抑圧し、義務のないことを行わせる行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法性を有する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の活動として、他の多数の組合員らと共に長時間にわたって被害者Aを取り囲んだ。その際、被告人…
事件番号: 昭和28(あ)876 / 裁判年月日: 昭和28年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項による刑事免責の規定は、勤労者の団体交渉において刑法上の暴行罪または脅迫罪に当たる行為が行われた場合にまで適用されるものではない。たとえ正当な目的をもつ団体交渉であっても、暴力的な手段を用いることは許容されないとする判断を示した。 第1 事案の概要:A労働者組合の組合員らが、団体…
事件番号: 昭和39(あ)161 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合員による暴力の行使は、それが団結のための平和的説得の域を脱している場合には、憲法28条が保障する団体行動権の行使には当たらず、正当な業務行為として刑事免責を受けることはない。 第1 事案の概要:被告人は、労働組合員ら4、5名とともに、コークスの傾斜面に立って貨車に手をかけていた被害者の背後…
事件番号: 昭和25(れ)623 / 裁判年月日: 昭和25年7月6日 / 結論: 棄却
舊勞働組合法第一條第二項の規定は勤勞者の團体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行爲が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは既に當裁判所大法廷の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三一九號同二四年五月一八日大法廷判決判例集第三卷第七七二頁以下參照)