判旨
判決書の理由中に、証拠上の合計額と本文の記載額が一致しないという理由の食い違いがあっても、他の犯罪事実との併合罪として処断されている場合には、直ちに「破棄しなければ著しく正義に反する」とは認められない。
問題の所在(論点)
判決書の理由において、計算上の合計額と本文の記載額に明らかな矛盾(理由の食い違い)がある場合、それが原判決を破棄すべき事由(刑事訴訟法411条各号)に該当するか。
規範
上告審において原判決に法令違反(理由の食い違い等)が認められる場合であっても、被告人が他に複数の重大な犯罪事実を犯しており、併合罪として処断されている等の事情があれば、その違法は「これを破棄しなければ著しく正義に反する場合(刑事訴訟法411条1号参照)」には当たらない。
重要事実
第一審判決は、犯罪事実の一つである小切手詐欺について、別紙一覧表の合計額が320万円であるにもかかわらず、本文中に合計270円と記載した。原審はこの誤りを看過して第一審判決を是認した。被告人は、当該事実以外にも合計90万円の小切手詐欺および合計268万円の業務上横領を犯しており、これらは併合罪として処断されていた。
あてはめ
一審判決の記載額「270円」は誤記と認める余地もなく理由に食い違いがあるといわざるを得ず、これを看過した原判決には違法がある。しかし、被告人は他にも多額の小切手詐欺や業務上横領を行っており、全体として併合罪として処断されている。このような余罪の重大性と処断の全体像に照らせば、一部の金額誤記による違法は、判決全体の結果を左右するほど重大なものとはいえない。
結論
原判決に理由の食い違いという違法があることは否定できないが、破棄しなければ著しく正義に反する場合とは認められないため、上告は棄却される。
実務上の射程
判決書の単純な記載ミスや理由の不備が、直ちに上告審での破棄事由になるわけではないことを示す。特に併合罪として重い刑が科されている場合、一部の事実に関する些末な(または刑に影響しない程度の)計算上の矛盾は、破棄事由としての「著しく正義に反する」のハードルを超えないとする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)2847 / 裁判年月日: 昭和28年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決書の「法令の適用」欄等において、明らかな誤記がある場合であっても、前後の記載を対照してその趣旨が明白であれば、直ちに判決に影響を及ぼす法令違反には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が上告した事案において、第一審判決の「法令の適用」の部とそれに付随する別表の内容を対照したところ、判決文中に「…