判旨
被告人が被害弁償に用いた株券が無価値であったことを理由に、被害弁償が行われなかったと判断することは、未起訴の余罪を実質的に処罰する趣旨の量刑判断とはいえず、憲法31条に違反しない。
問題の所在(論点)
被告人が被害弁償として提出した株券の無価値性を指摘し、弁償の事実を否定することが、起訴されていない余罪を実質的に処罰する趣旨で量刑の資料に考慮したといえるか(憲法31条違反の有無)。
規範
量刑において、起訴されていない犯罪事実(いわゆる余罪)を、実質的に処罰する趣旨で考慮することは、適正手続(憲法31条)の観点から許されない。しかし、被告人に有利な情状として主張された事実(被害弁償等)が実際には成立していないことを確認する過程で、その背後にある事情を評価することは、直ちに余罪の処罰には当たらない。
重要事実
被告人は刑事事件の量刑において被害弁償を行った旨を主張したが、原審は、当該弁償に用いられた株券に偽造の疑いがあり、無価値に等しいものであると判断した。その結果、原審は結局のところ被害弁償が行われなかったものと認定して量刑の資料とした。これに対し弁護人は、未起訴の犯罪事実(株券偽造等)を余罪として認定し実質的に処罰するものであり、憲法31条に違反すると主張した。
あてはめ
原判決は、被告人が主張する被害弁償の有効性を検討するに際し、用いられた株券が無価値に等しいことを認定したにすぎない。これは、被告人の主張する有利な情状(被害弁償の事実)が認められないという消極的な評価を行うための過程であり、株券偽造という別罪の成立を前提に、それを処罰する目的で刑を重くしたものではない。したがって、実質的に余罪を処罰する趣旨で量刑の資料に考慮したものとは認められない。
結論
本件の量刑判断は、未起訴の余罪を処罰するものではなく、適正な量刑資料の評価の範囲内である。したがって、憲法31条には違反しない。
実務上の射程
余罪の量刑利用に関するリーディングケース(最大判昭41.7.13)の法理を前提に、有利な情状の成否を判断する際の事実認定が、直ちに「処罰趣旨での余罪考慮」には当たらないことを示したもの。答案では、被告人側の有利な情状主張を排斥する文脈での事実認定が許容される限界を画する際に活用できる。
事件番号: 昭和59(あ)1559 / 裁判年月日: 昭和60年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】余罪を量刑の資料とする際、それが実質的に未起訴の犯罪を処罰する趣旨で考慮されたものでない限り、憲法31条及び39条には反しない。 第1 事案の概要:被告人は有印私文書偽造・同行使等の罪で起訴された。第一審判決は、本件各犯行の犯罪組成物件を没収するとともに、未起訴の事実(余罪)を量刑の資料として考慮…
事件番号: 昭和31(あ)4343 / 裁判年月日: 昭和32年4月5日 / 結論: 棄却
私文書偽造罪の判示として「行使の目的を以て」なる文言の記載がなくとも判文の全体からその趣旨が認め得られるときは、判示として欠くるところはない。