判旨
裁判所が検察官に対して訴因変更の請求をしないまま、無罪の自判をせずに差戻しを選択した場合であっても、それが実体的な審判を下したものではなく、審理の適正を期するための手続的判断にとどまる限り、憲法違反や判例違反には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴審が検察官に訴因変更を促す等の措置を講じないまま、無罪の自判をせずに事件を差し戻した判断が、実体的審判を放棄した憲法違反または判例違反に該当するか。
規範
控訴審において、原判決を破棄した後に事件を第一審裁判所に差し戻すか、あるいは自ら判決(自判)を下すかの判断は、審理の熟成度や被告人の防御権、審級の利益を考慮した裁判所の裁量に委ねられる。検察官に訴因変更を命じることなく差戻しを選択したとしても、それが直ちに実体的な無罪判断を回避した違法なものとは評価されない。
重要事実
被告人両名の刑事事件において、原審(控訴審)は本件が無罪の自判に適さないと判断し、さらに審理を尽くさせるため第一審裁判所への差戻しを命じた。これに対し、弁護人は「検察官が訴因変更を請求していない事実に対して実体的な審判を下さず、差戻しを選択したことは、憲法や判例に違反するものである」と主張して上告した。
あてはめ
原判決の説示によれば、本件が「無罪の自判に適さず、差戻しを相当とする」としたのは、あくまで事件の性質や審理状況に照らした傍論的な説示に留まる。これは、検察官が訴因変更を請求しなかった事実に対して確定的な実体的審判を下したものではなく、手続上の判断として差戻しを選択したものと認められる。したがって、弁護人が主張するような「実体的審判の回避」という前提を欠いている。
結論
本件各上告を棄却する。原審の差戻し判断に憲法違反や判例違反は認められない。
実務上の射程
裁判所による差戻しと自判の選択に関する裁量を認める判旨である。答案上は、破棄差戻しの適否が争点となる場面で、裁判所の裁量的判断(刑訴法400条但書等)を肯定する根拠として活用できるが、本決定自体は上告理由の不適法を主眼とするため、具体的な裁量権の限界については他の重要判例と併せて検討すべきである。
事件番号: 昭和33(あ)1779 / 裁判年月日: 昭和36年6月22日 / 結論: 棄却
他人所有の土蔵の構成部分たる屋根の一部を所有者の承諾なくして切断するときは、建造物損壊罪が成立するとした原判示は正当である。
事件番号: 昭和36(オ)629 / 裁判年月日: 昭和37年2月15日 / 結論: 棄却
第一審判決が確認の利益のないことをもつて訴を不適法として却下したが、仮定的に本案について認定判断をも判示している場合において、控訴審が確認の利益があり訴は適法であるけれども請求は理由がないと判断するときには、控訴審として、民訴法第三八八条により事件を第一審に差し戻さなくてもよい。