主として、裁判所の構成の度重なる変更、負担過重等により、第一次控訴審において四年、第二次控訴審において三年七月の審理中断を生じたが、他方、被告人側から審理促進を求める積極的な申し出もなく、右の審理中断が事実取調のほとんど終了した控訴審段階において生じたもので被告人の防禦権の行使に特に障害を生じたものとも認められない等の事情のある本件においては(判文参照)、いまだ憲法三七条一項に定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態に立ち至つたものとはいえない。
憲法三七条一項の迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態が生じていないものとされた事例
憲法37条1項
判旨
刑事事件の審理が憲法37条1項に反する事態に至っているかは、遅延の期間のみならず、遅延の原因、害された利益、当事者の態度等を総合して判断すべきである。本件のように16年を要した事案でも、裁判所の過重負担や被告人側の促進態度の欠如等の諸事情を鑑み、直ちに免訴等で審理を打ち切るべき異常な事態には当たらないとした。
問題の所在(論点)
刑事訴訟において著しい審理の遅延が生じた場合、憲法37条1項の迅速な裁判を受ける権利の侵害として、刑事訴訟法上の規定がない場合でも審理を打ち切る(免訴等)べき「異常な事態」に該当するか。
規範
具体的刑事事件における審理の遅延が憲法37条1項に反するかは、遅延期間のみならず、①遅延の原因と理由(やむをえないか)、②保障条項が守ろうとする諸利益が実際に害された程度、③審理促進に対する当事者の態度(裁判所への督促等)、④裁判所が置かれていた現実的な特殊事情(事件数や構成変更等)を総合的に判断すべきである。単に事件の複雑さ等により長年月を要した場合はこれに該当しない。
重要事実
被告人らは昭和33年に水道損壊罪等で起訴されたが、第一次控訴審で約4年、第二次控訴審で約3年7ヶ月もの間、控訴趣意書提出後に第一回公判期日が指定されない審理中断が生じた。起訴から第二次控訴審判決まで約16年が経過した。この間、大阪高裁では裁判官の頻繁な交代や、1部あたり月平均24〜41件という過重な新受件数、身柄事件の優先処理といった事情があった。一方、被告人側から審理促進を求める積極的な態度は示されていなかった。
あてはめ
本件では約16年の期間を要し、計7年超の審理中断がある点は「通常の状態として是認し難い」。しかし、①裁判所の構成変更が頻繁であったこと、②当時の事件受任数が過重で、本件以上に長期化した事件も多数存在したという「現実的な特殊事情」がある。また、③被告人側も漫然と権利の上に眠り、迅速な処理を促す等の積極的態度に出ていない。さらに、④中断は事実取調終了後の控訴審段階であり、防御権行使に特段の障害が生じたとも認められない。以上を総合すれば、高田事件判決(最大判昭47・12・20)が示したような「異常な事態」には至っていないといえる。
結論
本件の審理遅延は憲法37条1項に反するとまではいえず、審理を打ち切る必要はない。上告棄却。
実務上の射程
最大判昭47・12・20(高田事件)の法理を前提としつつ、単なる期間の長さだけでなく、当時の司法行政上の逼迫状況や被告人側の不作為を考慮して「異常な事態」を限定的に解釈する枠組みとして機能する。答案上は、遅延が裁判所の帰責事由による場合でも、当事者の態度や防御権への実害、当時の裁判所の客観的状況を併せて論じる際の指針となる。
事件番号: 昭和49(あ)2628 / 裁判年月日: 昭和50年8月6日 / 結論: 棄却
第一審裁判所から控訴審裁判所への記録の送付が四年一月を費やしたとしても、本件記録が他事件の記録の一部になつており、被告人側から審理促進を求める積極的な申し出もなく、被告人の防禦権の行使に特に障害を生じたものとも認められない等の事情のある本件においては、いまだ憲法三七条一項に定める迅速な裁判の保障条項に反する異常な事態に…
事件番号: 昭和50(あ)443 / 裁判年月日: 昭和51年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「迅速な裁判」の権利侵害の有無は、訴訟手続の遅延の期間のみならず、記録上うかがわれる諸般の事情を総合して判断すべきであり、異常な遅延が生じていない限り違憲とはならない。 第1 事案の概要:本件は被告人A外3名による労働争議等に関連した事件と解されるが(憲法28条への言及から…