判旨
無免許運転の罪と業務上過失致死罪は、一個の行為が複数の罪名に触れる一罪(観念的競合)の関係には立たず、併合罪として処理される。
問題の所在(論点)
無免許運転の罪と業務上過失致死の罪とが、刑法54条1項前段の「一個の行為が二個以上の罪名に触れるとき」(観念的競合)に該当するか、あるいは併合罪となるか。
規範
刑法54条1項前段の「一個の行為」といえるためには、身体的活動の共通性のみならず、各罪の構成要件的行為が重なり合っていることを要する。法益や行為の性質が著しく異なる場合には、同一の機会に行われたとしても、併合罪(同法45条前段)として扱うべきである。
重要事実
被告人が運転免許を受けないで自動車を運転中、業務上の注意を怠り、過失により人を死亡させた。これに対し、無免許運転の罪(道路交通法違反)と業務上過失致死の罪が成立するとされた事案である。
あてはめ
無免許運転は免許を受けずに運転を開始・継続すること自体を処罰するものであり、他方、業務上過失致死罪は運転上の注意義務違反により人を死傷させることを処罰するものである。両者は保護法益や構成要件的態様を異にする別個の行為といえる。したがって、これら二罪は一所為数法の関係(観念的競合)に立つとは認められない。
結論
無免許運転の罪と業務上過失致死の罪は併合罪の関係に立ち、憲法39条の二重処罰禁止の規定には違反しない。
実務上の射程
交通犯罪における罪数判断の基本を示す射程の長い判例である。運転という基本動作が共通していても、法規違反(無免許)と過失犯(過失致死傷)は原則として併合罪となる。なお、酒酔い運転と業務上過失致死傷については後に判例が観念的競合と判断した(最決昭49.5.29)ため、区別に注意が必要である。
事件番号: 昭和37(あ)2314 / 裁判年月日: 昭和39年4月7日 / 結論: 棄却
一 原判示の飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあると判示した原判決の結論は相当である(昭和三五年(あ)第二一二〇号同三八年一一月一二日第三小法廷判決参照)。 二 (原判示の要旨)所論は要するに論旨指摘の仙台及び札幌各高裁の二つの判例を挙げて飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした…
事件番号: 昭和42(あ)207 / 裁判年月日: 昭和42年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】累犯加重を規定する刑法56条および57条は、二重処罰の禁止を定めた憲法39条、および法の下の平等を定めた憲法14条のいずれにも違反しない。 第1 事案の概要:被告人は無免許運転、酩酊運転、および業務上過失致死の罪を犯した。原審(二審)はこれらを併合罪として扱い、かつ被告人に前科があったことから累犯…
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…
事件番号: 昭和46(あ)1590 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
同一の日時場所において、無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転する所為は、道路交通法一一八条一項一号、六四条の罪と同法一一七条の二第一号、六五条一項の罪との観念的競合の関係にある。