一 密輸拳銃故買(関税法第一一二条第一項)の罪と同一拳銃の不法所持(銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項違反)の罪とは、観念的競合の関係に立たない。 二 刑法総則の規定である同法第四五条前段、第四八条第一項のような規定は、これを適用した趣旨であることが、原判決自体から明らかに認められる以上、その適用をあえて掲げてなくても、違法とするに足りない(昭和二四年一一月二九日および同二六年九月一八日各第三小法廷判決、裁判集14号841頁、同五三号六一頁参照)。
一 密輸拳銃の故買と同一拳銃の不法所持の罪数関係 二 刑法第四五条前段、第四八条第一項の摘示を遺脱した原判決の適否
関税法112条1項,銃砲刀剣類等所持取締法3条1項,刑法45条前段,刑法54条1項,刑法48条1項,刑訴法335条1項
判旨
関税法違反の罪と拳銃不法所持の罪は観念的競合(刑法54条1項前段)の関係には立たず、併合罪(同45条前段)となる。また、判決において適用法条を明記せずとも、判決文全体から適用関係が明らかな場合には違法ではない。
問題の所在(論点)
1. 関税法違反の罪と拳銃不法所持の罪は、観念的競合(刑法54条1項前段)と併合罪(刑法45条前段)のいずれの関係に立つか。2. 判決文において刑法45条前段および48条1項の適用を明記しないことは違法か。
規範
1個の行為が複数の罪名に触れる「観念的競合」に該当するか否かは、その行為の態様、保護法益、および各罪の構成要件的性質に基づき判断される。また、判決における法令適用の記載については、適用条文が明示されていなくとも、判示内容からその適用関係が客観的に明白であれば、法令適用の不備として破棄事由にはならない。
重要事実
被告人Aは、拳銃等を密輸入したことによる関税法違反の所為と、当該拳銃を所持したことによる拳銃不法所持(銃砲刀剣類所持等取締法違反等)の事実で起訴された。弁護人は、これら二罪は観念的競合の関係にあると主張したが、原審は併合罪として処断した。また、原判決は各罪につき懲役刑と罰金刑を選択し、併合罪の規定(刑法45条前段、48条1項)を適用したが、判決文の適用法条欄にはそれらの条項を直接明記していなかった。
あてはめ
1. 関税法違反の所為(密輸入等)と拳銃の不法所持の所為は、行為の性質上、個別の意思決定に基づく別個の行為と解するのが相当であり、単一の行為によって複数の罪名に触れる「観念的競合」の関係には立たない。2. 原判決は各罪について懲役刑と罰金刑をそれぞれ選択しており、これらが刑法45条前段の併合罪の関係に立つことを前提として、刑法48条1項により併科を言い渡している。このように、判決文全体から適用法条の関係が自ずから明らかである場合には、あえて条文番号を列挙しなくとも実質的な違法はない。
結論
本件各罪は併合罪であり、観念的競合とする主張は失当である。また、適用法条の教示に欠ける点があっても、判決の内容から適用関係が明白であれば違法とはいえない。
実務上の射程
罪数論において、密輸入罪とその後の所持罪が別個の行為として併合罪になることを確認した事例。また、刑事実務における判決書の記載事項として、実質的に適用関係が判明すれば条文の摘示漏れが直ちに上告理由(刑訴法405条等)にならないという形式的瑕疵の限界を示している。
事件番号: 昭和40(あ)2167 / 裁判年月日: 昭和41年4月7日 / 結論: 棄却
原判決およびその是認する第一審判決が、第一審判示第四の拳銃二丁の所持につき銃砲刀剣類等所持取締法違反の包括罪に、実砲の所持につき火薬類取締法違反の罪に問擬し、両者を一個の行為にして数個の罪名にふれるものであるとした判示は正当である。
事件番号: 昭和34(あ)1880 / 裁判年月日: 昭和35年3月17日 / 結論: 棄却
同一事件につき同一人を蔵匿し、かつ、隠避させたときは包括一罪として処断すべく、また、同一事件であつても、数人の犯人を一個の行為で蔵匿しまたは隠避させたときは、一個の行為で数個の罪名に触れるものと解すべきである。
事件番号: 昭和49(あ)1431 / 裁判年月日: 昭和49年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいい、麻薬を身体に携帯して本邦に搬入する行為は、麻薬取締法違反と関税法違反の観念的競合となる。 第1 事案の概要:被告人は、関税定率法上の輸入禁制品であり、かつ麻薬取締法上も輸入が禁止さ…
事件番号: 昭和52(あ)1278 / 裁判年月日: 昭和52年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察のもとで行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合を指し、覚せい剤の輸入行為が同時に関税法違反となる場合は観念的競合にあたる。 第1 事案の概要:被告人は、覚せい剤取締法上で輸入が禁止されている覚せい剤(塩酸フエニルメチルアミノプロパン結…