一 本件について差し出された抗告申立書には「氏名不詳一九六五年七月九日から七月一六日まで名古屋拘置所一階三五房三七九号の男」という記載があるだけであつて、被告人の署名は存在しない。 二 被告人の氏名について、黙秘権がないことは、当裁判所大法廷の判例(昭和二七年(あ)第八三八号同三二年二月二〇日判決、集一一巻二号八〇二頁)とするところであり、法が抗告の申立を要式行為としている理由は、手続を厳格丁重にして過誤のないようにしようとするためであり、被告人が訴訟の主体として誠実に訴訟上の権利を行使しなければならないことも刑訴規則第一条第二項の明定するところであつて、氏名を記載することができない合理的な理由がないのに、これらの規定に違反して、申立人の署名のない申立書によつてなされた本件抗告は、無効なものと解するのが相当である(昭和三九年(あ)第二〇二九号同四〇年七月二〇日第三小法廷決定参照)。
署名のない申立書によつてした特別抗告申立の効力。
刑訴法434条,刑訴法423条,刑訴規則1条2項,刑訴規則60条
判旨
被告人が特別抗告の申立をする際、合理的な理由がないのに氏名を自書せず署名のない申立書を提出した場合は、法令上の方式に違反し、その申立は無効である。
問題の所在(論点)
被告人が氏名を黙秘し、氏名の代わりに拘置所での居室等の情報を記載して提出した特別抗告申立書は、刑訴規則60条にいう「署名」があるものとして有効か。
規範
特別抗告の申立は申立書を差し出す要式行為であり(刑訴法434条、423条)、被告人による申立書には本人の署名押印が必要である(刑訴規則60条)。署名とは氏名を自書することを指す。法が申立を要式行為とした趣旨は、手続を厳格丁重にして過誤を防止する点にあり、被告人も誠実に権利を行使すべき義務を負う(同規則1条2項)。したがって、氏名を記載できない合理的な理由がないのに署名を欠く申立は、法令の方式に違反し無効となる。
重要事実
事件番号: 昭和59(し)53 / 裁判年月日: 昭和59年5月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】地方裁判所の一人の裁判官が刑事訴訟法24条に基づき行った忌避申立却下の決定に対し、不服を申し立てる手段は、同法429条1項所定の準抗告によるべきであり、同法25条所定の即時抗告をすることはできない。 第1 事案の概要:抗告人は、地方裁判所の一人の裁判官に対して裁判官忌避の申立てを行った。これに対し…
被告人が特別抗告の申立を行うにあたり、原裁判所に差し出した申立書に、自己の氏名を自書せず、「氏名不詳一九六五年七月九日から七月一六日まで名古屋拘置所一階三五房三七九号の男」と記載したのみで、自らの署名を行わなかった。
あてはめ
本件申立書には、拘置所の居室番号等の記載はあるものの、被告人本人の氏名の自書、すなわち署名が存在しない。被告人の氏名について黙秘権は認められず、氏名を記載できない合理的な理由も認められない。そうであるならば、手続の厳格性を確保しようとする法の趣旨に反し、被告人としての誠実な訴訟権利の行使とはいえない。ゆえに、署名を欠く本件申立は法令上の方式に違反するといえる。
結論
本件申立は、刑訴法434条、426条1項前段により、法令上の方式に違反するものとして棄却される。
実務上の射程
訴訟行為の要式性に関する判断であり、特に被告人による自書の署名を求める規定(規則60条)の厳格な運用を示す。氏名黙秘を理由とする署名の代替は、合理的理由がない限り認められないため、実務上は氏名不詳のままの不服申立は原則として無効となると解すべきである。
事件番号: 昭和53(し)11 / 裁判年月日: 昭和53年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告事件の審理を担当する裁判官が、当該事件に関する準抗告の裁判に裁判長として関与したという事実のみでは、直ちに憲法37条1項にいう「不公平な裁判所」にあたるとはいえない。 第1 事案の概要:被告事件の審理を担当している裁判官が、当該事件に関連して提起された準抗告の裁判に、裁判長裁判官として関与した…
事件番号: 昭和29(し)45 / 裁判年月日: 昭和30年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味する。 第1 事案の概要:弁護人が、原決定の判断を非難し、憲法37条1項に違反するとして特別抗告を申し立てた事案。具体的な不公正の内容については判決文からは不明であるが、原決定の法…
事件番号: 昭和50(し)80 / 裁判年月日: 昭和50年11月18日 / 結論: 棄却
いわゆる記名代印方式による書面でした忌避等の申立は、無効である。
事件番号: 昭和29(し)46 / 裁判年月日: 昭和30年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所を意味する。被告人の権利を実質的に保障するため、客観的に不公平な裁判が行われるおそれのない外観を備えていることが要求される。 第1 事案の概要:申立人(弁護人)が、原決定の判断に不服があるとして憲法37…