憲法第二一条違反をいう点もあるが、本件で取締りに当つた警察官は道路交通法第六七条第一項に基いて、単に運転免許証の「提示」を求めただけであつて、検閲をしたものではないから、所論はその前提を欠く。
運転免許証の提示を求められたことを違憲(第二一条)と主張した論旨が前提を欠くとして斥けられた事例。
憲法21条,道路交通法67条1項
判旨
警察官が道路交通法に基づいて運転免許証の提示を求める行為は、憲法21条が禁じる検閲には当たらず、適法である。
問題の所在(論点)
警察官が道路交通法に基づき運転免許証の提示を求める行為が、憲法21条2項にいう「検閲」に該当し、憲法違反となるか。
規範
憲法21条2項が禁止する「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表を禁止する目的で、対象物を網羅的に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止することを指す。また、道路交通法に基づく運転免許証の提示要求は、交通の安全を確保するための行政上の規制目的で行われるものである。
重要事実
被告人は、道路を車両で走行中、警察官から道路交通法67条1項(当時)に基づき、運転免許証の提示を求められた。これに対し、被告人は当該提示要求が憲法21条(表現の自由、検閲の禁止)や憲法38条(黙秘権)に違反すると主張して争った。
事件番号: 昭和34(あ)1540 / 裁判年月日: 昭和35年3月3日 / 結論: 棄却
道路において演説をなし人寄をする場合を許可制とした道路交通取締法第二六条第一項第四号、第二九条第一号、同法施行令第六九条第一項および昭和二九年北海道公安委員会規則第一二号道路交通取締法施行細則第二六条第八号の各規程は、憲法第二一条に違反しない。
あてはめ
本件における警察官の行為は、道路交通法67条1項という明確な法律の根拠に基づいて行われたものである。この提示要求は、運転者が有効な免許を所持しているかを確認し、交通の安全を図るための事務的な手続きに過ぎない。思想内容を審査し、その表現を事前に抑制しようとする「検閲」の性質を全く備えていない。したがって、検閲に当たるとする主張はその前提を欠く。
結論
警察官による免許証提示要求は検閲に当たらず、憲法21条に違反しない。したがって、上告は棄却される。
実務上の射程
行政上の目的(交通規制等)のために行われる証票等の提示要求が、表現の自由の不当な侵害や検閲には当たらないことを簡潔に論証する際に活用できる。判旨が極めて簡潔であるため、答案では本件決定の論理を前提に、検閲の定義(最大判昭59・12・12等)と対比させて論じることが一般的である。
事件番号: 昭和50(あ)307 / 裁判年月日: 昭和50年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の尿の採取について、適正な手続により実施されたものであれば、憲法31条(適正手続)および35条(住居等の不可侵・捜索押収の要件)に違反せず、その適法性が認められる。 第1 事案の概要:被告人が覚せい剤取締法違反等の疑いで捜査を受けた際、捜査機関によって被告人の尿の採取が行われた。弁護人は、当…
事件番号: 昭和40(あ)1241 / 裁判年月日: 昭和40年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、裁判所に対し被告人側の申請にかかる証人を不必要と思われる者まで悉く尋問することや、必要と認めない者まで職権で喚問することを義務付けるものではない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、控訴審において証人Aの喚問を申請したが却下された。また、証人B、C、Dの3名については、被告人側…