判旨
不動産売買において、売買対象物件に抵当権が設定されている事実を秘匿し、抵当権がないものと誤信させて代金を交付させる行為は、たとえ他で補填する意図があったとしても、欺罔行為にあたり詐欺罪(刑法246条1項)が成立する。もっとも、本判決は、犯意の強弱や実損害の程度等の諸般の情状を考慮し、実刑とした原判決を量刑不当として破棄し、執行猶予を言い渡した。
問題の所在(論点)
不動産の売主が、対象物件に抵当権が設定されている事実を秘匿して売買代金を騙取した場合に、詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか。また、犯意の弱さや実損害の程度が量刑にどのように影響するか。
規範
不動産の取引において、買主の権利行使を妨げ、または不測の損害を被らせるおそれのある重大な事項(抵当権設定の有無等)は、取引上の信義則から告知すべき義務がある。これを秘匿して代金を交付させる行為は、不作為または作為による欺罔行為に該当し、相手方がその事実を知っていれば代金を支払わなかったと認められる関係(因果関係)がある限り、詐欺罪が成立する。犯行後の解決目算や代金の使途は、犯罪の成立自体を左右するものではなく、量刑上の事情にとどまる。
重要事実
被告人は、その所有する土地家屋を被害者Aに85万円で売却する際、26万円の債務を担保する抵当権が設定されている事実を秘匿した。Aは抵当権がないものと誤信し、内金として62万円を被告人に交付した。被告人は、当該抵当権の存在を知っていたが、別途所有する土地への抵当権移転や第三者への売却によって解決できるとの目算を有し、あえて告知しなかった。取得した金員は借財の返済に充てられ、遊興費等には使われていなかった。Aが被告人に代わって弁済した額を含む総支出と物件時価を比較すると、実損害は約20万円弱であった。
あてはめ
被告人は、物件に抵当権が存在することを知りながら、これを故意に秘匿して売買契約を締結し、Aに代金を交付させている。Aは抵当権の不存在を誤信して支払いを行っており、欺罔行為と交付行為の間の因果関係が認められるため、詐欺罪の成立は免れない。しかし、被告人の犯意については、他物件への抵当権移転等で解決しようとする目算があり悪性が弱いこと、取得金員を借財返済に充てており利得の態様も悪質ではないこと、被害者の実損害が時価との比較で比較的小額(約20万円)であること、被害者側も登記簿の調査を怠った手落ちがあること、被告人の生活困窮等の情状が認められる。これらの事情に照らせば、実刑とした一審・二審の量刑は重きに失する。
結論
被告人の行為に詐欺罪が成立するとした点は正当であるが、実刑に処した原判決は量刑不当であり破棄を免れない。被告人を懲役8月に処した上で、3年間の執行猶予を付すのが相当である。
実務上の射程
本判決は、詐欺罪の成立要件(特に告知義務違反による欺罔)を前提としつつ、犯行の動機や実損害の算定、被害者側の過失等を量刑において詳細に検討したものである。司法試験答案においては、詐欺罪の成否(構成要件該当性)の議論と、情状による量刑判断を峻別して論じる際の参考となる。
事件番号: 平成13(あ)1839 / 裁判年月日: 平成16年7月7日 / 結論: 棄却
根抵当権放棄の対価として支払われた金員が根抵当権者において相当と認めた金額であっても,根抵当権者が,当該金員支払は根抵当権設定者が根抵当権の目的である不動産を第三者に正規に売却することに伴うものと誤信しなければ,根抵当権の放棄に応ずることはなかったにもかかわらず,根抵当権設定者が,真実は自己の支配する会社への売却である…