判旨
賃金未払問題に関して説明を求める団体行動であっても、その手段が社会通念上許容される限度を超えた場合には、団体行動権の正当な行使として刑法35条の正当業務行為とは認められない。
問題の所在(論点)
労働者の団体行動に伴う暴力・脅迫等の行為が、憲法28条の団体行動権の行使として、刑法35条の正当業務行為に該当し違法性が阻却されるか。
規範
労働者の団体行動が憲法28条に基づき正当性を有し、刑法35条の正当業務行為として違法性が阻却されるためには、その目的が正当であるだけでなく、その手段も社会通念上許容される限度内であることを要する。具体的には、相手方の身体的自由等の基本的人権を不当に侵害するような暴力・脅迫的手段を用いることは、団体行動としての正当な範囲を逸脱するものと解される。
重要事実
被告人らは、勤務先の賃金未払問題に関し、担当のD課長に対して説明を求めた。その際、被告人Cが「一丁もんでやるぞ」と怒鳴るなどし、団体行動の一環として「洗濯デモ」と称される多衆の威力を示す行為に及んだ。この過程でD課長に対し、身体的自由を侵害するような暴行・脅迫等の行為が行われた。
あてはめ
本件において、被告人らが賃金未払について説明を求めたこと自体は、勤労者の団体行動として目的の正当性が認められ得る。しかし、多衆の威力を示し、怒号を浴びせる等の手段を用いたことは、社会通念上許容される限度を超えた暴力的な態様であるといえる。相手方の身体的自由に関する基本的人権は、団体行動権と対等に尊重されるべきであり、これを侵害する本件の行為は、手段の相当性を欠くものと評価される。
結論
被告人らの行為は、団体行動権の正当な行使とは認められず、刑法35条による違法性阻却も受けない。したがって、暴力行為等処罰に関する法律違反等の罪が成立する。
事件番号: 昭和38(あ)1052 / 裁判年月日: 昭和40年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書の「暴力の行使」に該当するか否かは、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものであるか否かによって判断される。社会通念上の限度を超えると認められる場合は、刑法上の正当行為(同法35条)としての違法性阻却を認めない。 第1 事案の概要:被告人らの原判示所為(具体的な事案…
実務上の射程
労働争議に伴う刑事責任の成否を検討する際のリーディングケース。目的が正当であっても手段の相当性(社会通念による限界)が厳格に要求されることを示す。特に、多衆の威力を用いた実力行使や個人の身体的自由を侵害する行為については、刑法35条の適用が否定されやすいことを答案上指摘すべきである。
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
事件番号: 昭和35(あ)2920 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による行為であっても、多数で長時間取り囲み、脅迫を用いて相手方の自由意思を抑圧し、義務のないことを行わせる行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法性を有する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の活動として、他の多数の組合員らと共に長時間にわたって被害者Aを取り囲んだ。その際、被告人…
事件番号: 昭和39(あ)744 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法28条の保障は無制限ではなく、勤労争議において使用者側の自由意思を剥奪し、または極度に抑圧するような暴力的な行為は正当な団体行動権の行使とは認められない。団体交渉において刑法上の暴行罪等に該当する行為が行われた場合、労働組合法1条2項による刑事罰の免責(刑法35条の適用)は受けられない。 第1…
事件番号: 昭和39(あ)2374 / 裁判年月日: 昭和40年7月30日 / 結論: 棄却
団体交渉権にもとづく行為についても、暴力行為等処罰ニ関スル法律の適用があるものと解すべきである。(昭和二四年(れ)第八九八号同二九年四月七日大法廷判決、刑集八巻四号四一五頁参照)