判旨
高度の政治性を有する日米安全保障条約等の内容の違憲性は、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、司法審査の範囲外である。また、手続上の不備があったとしても、相手方がそれを理由に拒まずに公務が行われた場合、これに対する妨害行為は公務執行妨害罪を構成し得る。
問題の所在(論点)
1. 日米安全保障条約およびそれに基づく行政協定の違憲性について、裁判所は司法審査権を行使できるか。 2. 測量業務等の公務執行における手続的瑕疵が、公務執行妨害罪の成否(公務の適法性)にどのような影響を及ぼすか。
規範
わが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有する条約については、その内容が「一見極めて明白に違憲無効」と認められない限り、司法審査権の範囲外である(統治行為論)。また、公務の適法性に関し、軽微な手続的瑕疵があっても、相手方がそれを理由に拒否していない状況下で適法な立会い等がある場合は、公務の執行は保護されるべきである。
重要事実
被告人らは、日米安全保障条約等に基づく米軍基地に関連する測量業務を妨害したとして、公務執行妨害罪等に問われた。弁護人は、安全保障条約および行政協定が憲法9条、98条、前文に反して違憲であること、および国会の承認を経ていない行政協定は無効であること、さらに測量手続において立会人の立会い等の適法性を欠いていたことを主張して上告した。
あてはめ
1. 日米安全保障条約は、主権国としてのわが国の存立に関わる高度の政治性を有するものである。砂川事件大法廷判決の趣旨に照らし、これらが一見極めて明白に違憲無効であるとは認められないため、裁判所はその内容を審理できない。 2. 測量時において、たとえ検査章の不携帯等の手続的不備があったとしても、相手方がそれを理由に拒まなかった事実がある。本件では認定された事実関係に基づき、適法な立会人が存在したと解されるため、公務の適法性は失われない。
結論
本件安全保障条約および行政協定は司法審査の範囲外であり、かつ違憲無効とは認められない。また、本件測量業務は適法な公務の執行にあたるため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和42(あ)2091 / 裁判年月日: 昭和44年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】高度の政治性を有する条約については、一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、司法審査の対象外として統治行為論の法理を適用すべきである。 第1 事案の概要:被告人らは、昭和35年に締結された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(新安保条約)の承認決議等に関して起訴された。弁護人…
実務上の射程
統治行為論の典型例として、高度な政治性を有する国家行為(特に条約)については、明白な違憲性がない限り司法判断を避けるべきという枠組みを提示している。公務執行妨害罪の文脈では、手続の細部よりも実質的な公務の適法性や相手方の認識を重視する姿勢を示しており、あてはめにおいて重要となる。
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…