判旨
法人の通告処分履行があっても、別個の違反行為者である代表者個人に対する通告処分の履行がない以上、当該個人を起訴し処罰することは、憲法39条の二重処罰の禁止に抵触しない。
問題の所在(論点)
法人が通告処分を履行した場合に、その代表者個人を同一事案について刑事処罰することが、憲法39条の二重処罰の禁止に抵触するか。法人と個人の人格の峻別が争点となる。
規範
憲法39条が禁じる二重処罰とは、同一の行為について同一の行為者を重ねて処罰することを指す。したがって、法人と自然人が別個の主体として法的に扱われる場合、一方に対する行政的措置や処罰の履行があったとしても、他方の主体に対する処罰は、同一人に対する二重処罰には当たらない。
重要事実
被告人が代表取締役を務める有限会社「家具のA」に対し、通告処分がなされ、同会社はこれを履行した。一方で、代表者個人である被告人に対しても別個に通告処分がなされていたが、被告人はこれを履行しなかった。そのため、当局は被告人を告発し、起訴に至った。被告人側は、会社が既に通告を履行している以上、代表者を処罰することは憲法39条(二重処罰の禁止)や憲法13条等に違反すると主張した。
あてはめ
本件において、通告処分の履行があったのは有限会社「家具のA」という法人である。これに対し、本件で起訴されたのは被告人という自然人であり、両者は別個の違反行為者である。たとえ被告人が当該会社の代表者(代表取締役)であったとしても、法人と個人は法律上別個の主体である。被告人自身に対する通告処分の履行がなされていない以上、会社による履行を理由に被告人への処罰を免れることはできない。したがって、被告人への処罰は「同一行為につき同一行為者を二重に処罰するもの」とはいえない。
結論
被告人に対する告発、起訴に基づく処罰は合憲であり、二重処罰の禁止には当たらない。
実務上の射程
法人と代表者の双罰規定がある場合や、法人格の峻別が問題となる行政罰・刑事罰の交錯場面で活用できる。法人による制裁の履行が個人に及ばないことを示す論拠として、憲法39条の解釈に際し「主体の一致」が必要であることを明確にしている。
事件番号: 昭和28(あ)4106 / 裁判年月日: 昭和29年1月21日 / 結論: 棄却
物品税を逋脱した事実が発覚したためになされた税務署長の通告処分(物品税五倍相当の罰金に相当する金額及び書類送達費の納付)を履行しなかつた以上、その後に右物品税だけを納付しても、告発にかかる物品税逋脱犯の刑事責任を免れることはできない。
事件番号: 昭和33(あ)1844 / 裁判年月日: 昭和38年5月29日 / 結論: 棄却
(裁判官奥野健一の少数意見)職権により調査するに、本件没収に係る貨物は被告人ら以外の第三者であるA冷房株式会社の所有に属するものであることは記録上明白であり、その所有者である第三者に対し告知、弁解、防禦の機会を与えることなく没収することは憲法上許されないことは当裁判所の判例とするところであるが、被告人Bは第一審当時本件…