弁護人の上告趣意第一点は、原判決が「所論の事情殊に被告人に前科のないこと、原判示の横領金の外にも横領分があるか否かの点について組合側との交渉が停滞している事情等を参酌しても」量刑重きに失するとは認められない旨判示したのは、起訴事実以外の横領の事実を量刑判断の基礎としたもので、憲法三七条に違反すると主張するが、原判決の右判示は交渉停滞の事情等を被告人に有利に参酌した趣旨であること、判文自体に照らし明らかであるから、所論は、その前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
憲法第三七条違反の主張(起訴事実以外の横領の事実を量刑判断の基礎にした。)はその前提を欠くとした事例。
憲法37条1項,刑訴法405条
判旨
起訴事実以外の犯罪事実を直接の処罰対象として量刑の基礎とすることは許されないが、被告人の有利な事情として参酌することは直ちに憲法37条に違反するものではない。
問題の所在(論点)
裁判所が量刑を決定するに際し、起訴されていない余罪の存在を示唆する事実(交渉の停滞等)を考慮することが、憲法37条(被告人の権利)や適正手続きに反し、許されない余罪評価に当たるか。
規範
量刑の判断において、起訴されていない余罪を実質的に処罰する趣旨で考慮することは、告知・聴聞の機会を奪うものであり許されない。しかし、情状に関する事実として、被告人の更生可能性や示談の状況といった被告人に有利な事情を参酌する過程で、余罪の有無に関する交渉経過等に言及することは、直ちに違法とはならない。
重要事実
被告人が横領罪で起訴された事案において、原審は、被告人に前科がないことや、起訴事実以外の横領金の有無について組合側との交渉が停滞している事情等を参酌した上で、量刑が重すぎるとは認められないと判断した。これに対し弁護人は、起訴事実以外の事実を量刑の基礎としたものであり、憲法37条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
原判決の判示内容を精査すると、組合側との交渉が停滞している等の事情は、被告人に有利な情状として参酌されたものであることが明らかである。これは、余罪を認定して実質的に処罰を重くしたものではなく、被告人の立場や更生環境等の主観的・客観的情状を評価する過程の一部に過ぎない。したがって、弁護人の主張は前提を欠いている。
結論
起訴事実以外の事情を被告人に有利な情状として参酌することは適法であり、原判決に憲法違反の過誤はない。
実務上の射程
余罪評価の限界に関する判例である。答案上は、余罪を「被告人の性格、経歴、犯罪の動機、目的、態様等」を推認する資料として考慮できるとする通説・判例の枠組みの中で、本判決のように「有利な情状」として触れる分には特段の問題が生じないことを示す際に活用できる。
事件番号: 昭和29(あ)97 / 裁判年月日: 昭和30年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつ裁判所による裁判を意味する。 第1 事案の概要:被告人が、原審における牽連犯(刑法54条1項後段)の解釈不当等を理由として、憲法31条(適正手続)および37条(公平な裁判所の裁判を受ける権利)に違反すると主張して上…