「期末原料在庫高を正当とすれば、当該年度における生産量と原料の消費量とが計算上非常にくいちがうことにならざるを得ないのであつて、この点よりするも第一審判決認定の期末原料在庫高は誤りである」との主張に対し、「生産量と消費量とにそのようなくいちがいの存することは記録上否定し得ないけれども、記録にあらわれた被告会社の事業内容その他の状況から見て、それら多額の原料の消費に見合う記帳外の原料の受入れがなかつたとはたやすく断定し難い」として右期末在庫高に関する第一審判決の認定を支持した原判決には理由齟齬ないし理由不備の違法があり、刑事訴訟法第四一一条第一号に当る。
理由齟齬ないし理由不備の違法があつて刑事訴訟法第四一一条第一号に当るとされた事例。
刑訴法411条1号,刑訴法378条4号,法人税法9条1号
判旨
課税標準となる所得を算出する際、生産量と原料消費量の齟齬を説明するために「記帳外の原料仕入れ」の存在を認めるならば、特段の事情がない限り、当該仕入れ額を損金として計上しなければならない。これを考慮せずに犯則所得を認定した原判決には、理由不備または理由齟齬の違法がある。
問題の所在(論点)
脱税事件等の犯則所得の算定において、記帳外の原料仕入れが存在すると推認しながら、その仕入高を損金に算入せずに所得金額を認定することは許されるか。また、そのような認定に基づく判決に理由不備・理由齟齬の違法があるか。
規範
法人税法上の所得は、当該事業年度の総益金から総損金を控除して計算される。売上原価(損金)は「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」の算式により算出されるため、当期中に製品化・販売された原料の仕入れが認められる場合には、その仕入高を損金として確定・計上しなければ正当な所得金額を把握することはできない。
重要事実
被告会社において、原麦受払帳の記載に基づく期末原料在庫高の認定が争われた事案。原判決は、生産量と消費量の計算上の大幅な齟齬について、「多額の原料消費に見合う記帳外の原料受入れ(仕入れ)がなかったとは断定できない」として、記帳外仕入れの存在を事実上認めつつ、第一審の在庫高認定を支持した。しかし、犯則所得の算出にあたっては、この記帳外仕入高を損金として考慮した形跡がなかった。
事件番号: 昭和35(あ)560 / 裁判年月日: 昭和38年10月22日 / 結論: 棄却
一 原判決の確定した事実関係の下においては、原審が所論未払事業税、諸未払金、交際費を被告会社の本件犯則事業年度の損金に計上することを認めなかつたのは正当である。 二 (原判示の要旨) (イ)未払事業税について 所論昭和二十二、二十三両年度の法人所得に対する事業税については、当時賦課徴収制が採られ、納税義務者に対する徴収…
あてはめ
原判決は、原料の消費量と生産量の矛盾を解消する根拠として「記帳外の原料仕入れ」の存在を肯定している。このことは、当期中に原料が受入れられ、製品化され販売されたことを認めるものに他ならない。そうであれば、法人税の所得計算の原則に従い、当該仕入高を損金として計上すべきである。しかるに、原判決は期末在庫高の認定の当否のみに注視し、損金算入が必要な記帳外仕入高を所得算出に反映させていない。これは犯則所得の数額を争う論旨を正解せず、計算の論理的一貫性を欠くものである。
結論
記帳外の仕入れを認めながらこれを損金として計上せずに所得を認定した判断には、判決に影響を及ぼすべき理由齟齬または理由不備の違法(刑事訴訟法378条4号参照)があり、破棄を免れない。
実務上の射程
所得金額の認定において、益金の存在だけでなく、それに対応する損金(特に記帳外の原価)についても証拠に基づき適正に評価・算入すべきことを示した。刑事実務上、検察官による所得額の立証や裁判所の事実認定において、計算の基礎となる数値の論理的整合性が厳格に求められることを示唆するものである。
事件番号: 昭和57(あ)336 / 裁判年月日: 昭和57年9月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】脱税事件における所得金額の認定において、証拠から合理的に推認される計算方法を用いることは経験則に合致し、合理的である。 第1 事案の概要:被告人が所得税法違反(脱税)に問われた事案において、原審(控訴審)は一定の認定方法を用いて被告人の所得金額を算出した。これに対し弁護人は、当該認定方法が不合理で…
事件番号: 平成8(行ツ)138 / 裁判年月日: 平成10年6月12日 / 結論: 棄却
役員に対する退職給与として法人の固定資産である土地をその帳簿価額である二五〇〇万円で現物支給し、右金額について損金経理をしたが、右土地の支給時における適正な価額は少なくとも一億六〇五三万四三六〇円を下るものではなかったという事実関係の下においては、右土地の支給時における適正な価額と帳簿価額との差額は、法人税法三六条にい…