法人税逋脱罪につき、裁判所が、被告会社の逋脱所得の内容を認定するにあたり、検察官の主張しなかつた勘定科目である仮払金一七五万円、貸付金五万円を新たに加え、また、検察官の主張した勘定科目である借入金七五万円を削除するような場合には、訴因変更の手続を必要とする。
訴因変更手続を要するとされた事例。
刑訴法256条1項,刑訴法256条2項,刑訴法312条,昭和37年法律45号法人税法の一部改正法律附則11項,法人税法(昭和37年法律45号による改正前)48条1項,法人税法(昭和37年法律45号による改正前)51条1項
判旨
裁判所が訴因と異なる事実を認定する場合、被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれがあるときは、訴因変更手続を要する。ただし、被告人が公訴事実を争わず情状のみを主張していた等の事情があれば、手続を経ない認定も著しく正義に反するとまではいえない。
問題の所在(論点)
裁判所が検察官の主張(訴因)に含まれない具体的な所得項目を補足・変更して認定する場合に、訴因変更手続を要するか。また、手続を欠くことが直ちに判決の破棄理由となるか。
規範
裁判所が訴因と異なる事実を認定するに際し、その認定が被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれがある場合には、原則として刑事訴訟法312条1項の訴因変更手続を要する。
重要事実
被告人両名が脱税(所得逋脱)の罪に問われた事案において、第一審判決は、検察官が主張しなかった仮払金175万円および貸付金5万円を新たに認定し、一方で検察官が主張した借入金75万円を削除して逋脱所得の内容を認定した。原審はこの認定を訴因変更手続なしで行った第一審を適法としたが、被告人側はこれが憲法31条や刑事訴訟法に違反すると主張して上告した。なお、被告人側は第一審において公訴事実を争わず、もっぱら情状に関する事実のみを主張・立証していた。
あてはめ
本件における所得項目の差し替えや追加は、被告人側の防御に実質的な不利益を与える可能性があるため、本来は訴因変更手続を経るべきであった。したがって、手続なしに認定した第一審およびこれを是認した原審の判断は訴訟法の解釈適用を誤ったものである。しかし、訴訟の経過をみると、被告人側は第一審から公訴事実自体を争わず情状立証に終始していた。このような状況下では、手続の懈怠が被告人の防御権を実質的に侵害したとは言い難く、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
結論
訴因変更手続を要する場合であっても、被告人が公訴事実を争わない等の訴訟経過に照らし、防御上の不利益が実質的にないときは、手続の欠如は必ずしも破棄理由(刑訴法411条)には当たらない。上告棄却。
実務上の射程
訴因変更の要否に関する「防御不利益説」を基礎づける判例である。答案上は、訴因の識別範囲内であっても、争点形成の観点から「被告人の防御にとって重要な事項」に変更がある場合は手続が必要であると説く際に用いる。また、手続違反があっても、具体的な訴訟経過から防御の必要性が乏しい場合には、無罪や破棄を導かないとする相対的論理の根拠となり得る。
事件番号: 昭和57(あ)822 / 裁判年月日: 昭和58年2月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認および量刑不当の主張は、刑事訴訟法405条に規定された適法な上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人側の弁護人が、原判決には事実の誤認および量刑の不当があるとして、最高裁判所に対し上告を申し立てた事案である。 第2 問題の所在(論点):事実誤認および量刑不当の主張が、刑事訴訟法4…