判旨
両罰規定により事業主たる個人が処罰される根拠は事業主の過失責任にあり、同規定は選任・監督上の過失を推定したものと解される。したがって、従業者の違反事実に基づき事業主の過失を推定して処罰することは、憲法31条や刑事訴訟法317条に違反しない。
問題の所在(論点)
両罰規定に基づき事業主たる個人を処罰する場合の責任の本質、および事業主の過失を推定して処罰することの合憲性・適法性が問題となる。
規範
所得税法(旧法)72条1項のような両罰規定による事業主(個人)の刑事責任の本質は、過失責任である。同規定は、従業者の違反行為が認められる場合に、事業主における選任・監督上の過失を推定した規定と解するのが相当である。
重要事実
被告人Aの従業者である被告人Bが、業務に関して所得税法違反の犯罪行為に及んだ。原審は、従業者Bの犯罪事実を証拠に基づき確定した上で、事業主である被告人Aについて、当時の所得税法72条1項(両罰規定)を適用し、Aの過失を推定して有罪を宣告した。これに対し被告人側は、無過失責任を問うものであり憲法31条に反する、あるいは証拠によらない認定であり刑事訴訟法317条等に反すると主張して上告した。
あてはめ
両罰規定による事業主の処罰は無過失責任を強制するものではなく、事業主自身の過失に基づく責任を問うものである。本件において原判決は、証拠によって従業者Bの違反行為を確定しており、これを基礎として事業主Aの過失を推定している。この推定は合理的根拠に基づくものであり、実質的には事業主が自らの無過失(選任・監督に懈怠がなかったこと)を証明しない限り責任を負うという構造である。したがって、証拠に基づかず有罪を認定したとはいえず、適正手続や証拠裁判主義に反するものではない。
結論
所得税法72条1項による事業主の処罰は過失責任に基づくものであり、その過失の推定が合理的である限り、憲法31条および刑事訴訟法317条に違反しない。
実務上の射程
両罰規定における事業主個人の責任の本質を「過失責任」と明示した点に意義がある。答案上では、過失の「推定」が働くことから、被告人側が「選任・監督を尽くしたこと」を証明できない限り処罰を免れないという挙証責任の転換に近い効果を認める文脈で使用する。なお、本判決は事業主が「自然人(人)」の場合を扱っており、法人が業務主体のケースについては別異の検討が必要であることに留意する。
事件番号: 昭和26(れ)1452 / 裁判年月日: 昭和32年11月27日 / 結論: 棄却
一 地方税法(昭和二三年法律第一一〇号)第一五一条第三項の「入場税法の廃止前になした行為に関する罰則の適用については、なお、従前の例による」との規定は、従前の行為に関する限り、旧入場税法(昭和二二年法律第一四二号による改正前のもの)の刑罰規定については何等変更なきことを規定したものと解すべきである。 二 同種の犯行につ…