被告人の保管にかかる前示銀行に対する預金を引出し業務上保管中擅にその全部又は一部を着服して横領しこれを銀行における自己の預金口座に振替えた場合は横領罪の成立を妨げないものと解すべきである。
業務上横領罪が成立するとした事例。
刑法252条,刑法253条
判旨
会社名義の文書を発行する権限を限定的に与えられている者が、その権限の範囲を超えて文書を作成した場合には、有印私文書偽造罪における偽造にあたる。また、業務上保管中の預金を引き出し、自己の預金口座に振り替えて着服した行為は、業務上横領罪を構成する。
問題の所在(論点)
1. 会社から限定的な手形発行権限を与えられた者が、その範囲を超えて手形を作成した行為が有印私文書偽造罪(刑法159条1項)の「偽造」にあたるか。2. 保管中の預金を引き出し自己の口座へ振り替えた行為に業務上横領罪(刑法253条)が成立するか。
規範
偽造とは、作成権限のない者が他人名義の文書を作成することをいう。作成権限が特定の目的に限定されている場合、その権限を逸脱して行われた作成行為は、作成権限のない者による作成として偽造にあたる。また、業務上の占有には公金や預金に対する事実上の支配も含まれ、これに対する不法領得の意思の実現は横領罪を構成する。
重要事実
被告人は経理担当の取締役であり、会社印および代表者印を預かり、会社業務の処理上必要な場合にのみ代表者名義の手形・小切手等を発行する権限を与えられていた。しかし、被告人は右必要の限度を超えて手形を振り出した。さらに、被告人は業務上保管中であった銀行預金を引き出し、その全部または一部を自己の銀行口座に振り替えて着服した。
事件番号: 昭和40(あ)155 / 裁判年月日: 昭和40年6月3日 / 結論: 棄却
A株式会社の社員ではあるが、同会社を代表または代理して同会社名義の約束手形を振出す権限のない甲野太郎が、約束手形の振出人欄に、「鹿児島市a町b A株式会社鹿児島出張所」および「甲野太郎」ときざんだゴム印をそれぞれ押し、かつ甲野太郎の名下に「甲野」ときざんだ丸印を押した約束手形を作成する行為は、有価証券の偽造に当る。
あてはめ
1. 被告人に与えられた権限は「会社業務の処理上必要な場合」に限定されており、包括的な代理権ではない。したがって、その必要の限度を超えて手形を発行した行為は、作成権限のない者が他人名義を冒用したものと評価でき、偽造にあたる。2. 被告人は経理担当として預金を業務上保管する立場にあり、これを自己の口座に振り替える行為は、委託の趣旨に反して所有者でなければできない処分をなすもの(不法領得の意思の発現)といえる。
結論
1. 必要の限度を超えた手形の振り出しは偽造にあたる。2. 預金の自己口座への振り替えは業務上横領罪を構成する。以上より、被告人の行為につき有印私文書偽造罪および業務上横領罪の成立を認めた原判断は妥当である。
実務上の射程
文書偽造における「権限逸脱」が偽造にあたることを示した重要判例である。民事上の表見代理等の成否とは別個に、刑法上の作成権限の有無を判断すべき点に注意が必要である。また、業務上横領における「占有」の概念が、預金という形での支配を含むことも再確認されている。
事件番号: 昭和28(あ)1588 / 裁判年月日: 昭和30年6月29日 / 結論: 棄却
有価証券偽造罪を判示するにあたつては、いかなる名義人のいかなる内容の有価証券であるかがわかる程度に判示するを以て足り、商法上の手形要件を全部表示するの必要はない。
事件番号: 昭和30(あ)1162 / 裁判年月日: 昭和30年7月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判示事項としての判旨は示されていないが、本件のような状況において有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立することを肯定した。 第1 事案の概要:本件判決文からは具体的な事実関係は不明であるが、被告人が他人の名義を冒用して有印の私文書を作成した事案であると推認される。 第2 問題の所在(論点):被…
事件番号: 昭和28(あ)3652 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上占有する他人の物を自己の利得のために処分する行為は、背任罪ではなく業務上横領罪を構成する。また、預金に際して実在する他人の氏名を使用したとしても、その名義人は虚無人とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上の地位に基づき管理・占有していた金員を、自己の利益を図る目的で処分した(判示第…
事件番号: 昭和40(あ)2015 / 裁判年月日: 昭和43年6月25日 / 結論: 棄却
被告人が水産業協同組合法により支配人に関する商法の規定が準用される漁業協同組合参事であつても、同組合内部の定めとしては、同組合が融通手形として振り出す組合長振出名義の約束手形の作成権限はすべて専務理事に属するものとされ、被告人は単なる起案者、補佐役として右手形作成に関与していたにすぎない場合において、同人が組合長または…