刑の執行猶予の言渡を取り消されることなく猶予の期間を経過し刑の言渡がその効力を失つても、その言渡を受けたという既往の事実そのものを量刑の資料に参酌することが違法でないことは当庁昭和三二年(あ)三一三六号、同三三年五月一日第一小法廷決定の判示せるところである。
刑法第二七条により刑の言渡の効力を失つた前科を量刑資料に参酌することの適否。
刑法27条
判旨
刑の執行猶予期間を無事に経過して刑の言渡しが効力を失った場合であっても、過去に刑の言渡しを受けたという既往の事実自体を量刑の資料として参酌することは適法である。
問題の所在(論点)
刑の執行猶予期間の経過により刑の言渡しが効力を失った場合(刑法27条)において、その言渡しを受けたという既往の事実を、その後の別事件の量刑資料として参酌できるか。また、それが二重処罰の禁止(憲法39条)や適正手続き(憲法13条)に違反しないか。
規範
刑の執行猶予の言渡しが取り消されることなく猶予期間を経過し、刑法27条に基づき刑の言渡しがその効力を失った場合であっても、当該刑の言渡しを受けたという既往の客観的事実そのものは消滅しない。したがって、裁判所が被告人の性格、経歴、再犯の危険性等を判断するにあたり、その事実を量刑上の参酌資料(情状)として用いることは、刑法および憲法の各規定に抵触するものではない。
重要事実
被告人は、過去に刑の執行猶予の言渡しを受けた経歴を有していた。その後、当該執行猶予の期間を無事に経過し、刑の言渡しは効力を失っていた。しかし、原審は被告人の量刑を決定するに際し、この執行猶予の言渡しを受けたという事実を前科・経歴として考慮し、第一審の量刑を相当とした。これに対し、被告人側は、効力を失った刑の言渡しを量刑資料とすることは違憲・違法であるとして上告した。
あてはめ
執行猶予期間の経過によって失われるのは、刑の言渡しに基づく「法的効果」であり、過去に有罪判決を受けたという「歴史的事実」までが否定されるものではない。量刑は、被告人の資質や反社会的な性格、改善更生の可能性を総合的に評価して行われるものであるから、過去の犯罪経歴や裁判歴は、被告人の現在の適格性を判断するための重要な要素となる。本件において原審が、効力を失った刑の言渡しの事実を考慮して量刑の判断を維持したことは、刑事裁判における広範な裁量の範囲内であり、二重処罰の禁止等の憲法規定にも反しない。
結論
執行猶予期間を満了し刑の言渡しが効力を失った場合であっても、その事実を後の裁判で量刑の資料に参酌することは違法ではなく、憲法13条・39条にも違反しない。
実務上の射程
量刑論における情状(被告人の性格、経歴)の参酌範囲を示す。いわゆる「前科」としては扱えない場合であっても、「犯歴・裁判歴」等の経歴的事実として量刑上不利益に考慮できることを肯定する射程を持つ。答案上は、被告人に有利な事情・不利な事情を整理する際、執行猶予期間が満了した過去の事案の扱いについて本判例を根拠に言及し、責任非難や再犯の危険性の評価に繋げる。
事件番号: 昭和38(あ)3001 / 裁判年月日: 昭和39年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法27条の「刑の言渡しは、その効力を失う」とは、法的効果が将来に向かって消滅することを意味し、刑に処せられた既往の事実自体が消滅するものではない。そのため、刑の執行猶予期間を経過した前科の事実を量刑の資料として参酌することは憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、過去に刑の執行猶予を言い…
事件番号: 昭和50(あ)1807 / 裁判年月日: 昭和50年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行猶予期間を満了し、刑法27条により刑の言い渡しが効力を失った前科であっても、その言い渡しを受けたという既往の事実を量刑上の資料として参酌することは憲法14条1項等に違反せず、適法である。 第1 事案の概要:被告人には過去に刑の言渡しを受けた前科が存在したが、当該前科については執行猶予の言渡…