勾留中の被告人が出頭している原審公判廷で、被告人が一審においてはその供述調書を証拠とすることに同意していた証人五名を、検証の現場附近で尋問する旨の決定がされたのに、被告人および弁護人から立会の要求もなく、またその証人尋問には弁護人が立ち会い、それら証人尋問調書の証拠調にあたつても異議がなかつたときは、右証人尋問に際し被告人に反対尋問の機会が与えられなかつたから憲法第三七条第二項に反する旨の主張は、その前提を欠く。
勾留中の被告人が原審の公判期日外の証人尋問に立ち合わなかつた場合と憲法第三七条第二項。
憲法37条2項,刑訴法157条,刑訴法326条
判旨
勾留中の被告人が公判外の証人尋問に立ち会う権利を認めなくとも憲法37条2項に違反しない。また、第1審で証人の供述調書につき証拠同意した場合には、反対尋問権を放棄したものと解される。
問題の所在(論点)
1. 勾留中の被告人に公判外の証人尋問への立会い権を認めないことは、憲法37条2項(証人尋問権・立会権)に違反するか。 2. 第1審で証拠同意をした場合、控訴審において反対尋問権の侵害を主張できるか。
規範
被告人の証人尋問への立会権(憲法37条2項後段)に関し、勾留中の被告人に対して公判外の証人尋問への立会いを認めないことは合憲である。また、第1審において捜査官作成の供述調書を証拠とすることに同意(刑訴法326条1項)した場合には、当該証人に対する反対尋問権を放棄したものと解するのが相当である。
重要事実
被告人は勾留中に原審(控訴審)第1回公判に出頭し、そこで現場検証および現場での証人5名の尋問を行う旨の決定がなされた。しかし、被告人はこれに立会う申出をせず、実際の検証・尋問には弁護人のみが立ち会った。被告人は第2回公判にも出頭したが、右検証調書および証人尋問調書を取り調べることについても異議を述べなかった。なお、被告人は第1審において、これらの証人の捜査官に対する供述調書を証拠とすることに同意していた。
あてはめ
まず、公判外の証人尋問への被告人の立会いについては、勾留中という身体拘束の制約がある状況下でこれを認めないとしても、従来の判例に照らし憲法37条2項に違反しない。次に、証拠調べの手続面を見ると、被告人は第1審で証人の供述調書の証拠採用に同意しており、この時点で反対尋問権を放棄したといえる。さらに、原審の証人尋問等に際しても被告人から立会の申出はなく、弁護人が立ち会った上で、後の公判期日での調書取調べにも異議を述べていない。したがって、反対尋問権や立会権の侵害があったとは認められない。
結論
被告人の証人立会権や反対尋問権の侵害をいう論旨は、憲法37条2項違反の前提を欠き、理由がない。
実務上の射程
伝聞例外としての証拠同意(326条)がなされた場合の反対尋問権放棄の法的性質を確認する際に有用である。また、被告人の立会権について「勾留」という身体拘束下での制限を合憲とする点に射程があるが、現代の実務では被告人の権利保障の観点から可能な限り立会いの機会を確保する運用がなされており、本判決はあくまで憲法上の最低限度の保障を示したものと理解すべきである。
事件番号: 昭和29(あ)2329 / 裁判年月日: 昭和29年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留中の被告人が検証現場等における証人尋問に立ち会わなかった場合であっても、日時場所の通知がなされ、弁護人が立ち会い反対尋問を行うなど立会の機会が実質的に保障されていたのであれば、憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人ら3名が勾留中に、検証現場付近において証人尋問が行われた。この証…