判旨
刑事訴訟法321条1項2号後段に規定される「特信情況」の判断について、裁判所は特段の証拠調べを要さず、また判決文においてその詳細を明示的に判断・説示する必要はない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法321条1項2号後段の「特信情況」の有無を判断するにあたり、裁判所は別途の証拠調べや、判決文における具体的な理由の説示を要するか。
規範
刑事訴訟法321条1項2号(検察官面前調書)において、証人の公判廷での供述が前の供述と相反する場合に証拠能力を認めるための要件である「前の供述を後の供述よりも信用すべき特別の情況(特信情況)」の有無については、裁判所がこれを判断するための独立した証拠調べを必要とせず、また判決書においてその判断過程を具体的に判示することも必要としない。
重要事実
被告人Bの刑事裁判において、証人Cが公判廷で行った証言が、以前に検察官に対して行った供述調書の内容と相反していた。第一審裁判所は、公判廷の証言を排して検事面前調書を証拠として採用し、有罪判決を下した。これに対し、弁護人は、検察官面前調書を証拠とするためには特信情況の存在が必要であるところ、原審がその状況について何ら判示していない点は訴訟法違反であり、ひいては自白のみによる犯罪認定として憲法38条3項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
最高裁判所は、過去の判例(昭和28年12月25日決定等)を引用し、刑訴法321条1項2号の書面に関する特信情況の判断については、そのための証拠調べを要せず、かつその判断を判決に明示する必要もないとの立場を改めて示した。本件においても、原審が特信情況について具体的な判示を行わずに検事面前調書を証拠採用したことは、訴訟法上の違法とは言えない。
結論
原審の証拠採用手続に訴訟法違反はなく、憲法違反の前提も欠くため、上告は棄却される。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条1項2号後段)の証拠能力が争点となる答案において、裁判所が特信情況を肯定する際の説示の程度や手続的要件を論述する際の根拠として用いる。ただし、実務上および現在の司法試験の答案作成上は、単に「判示を要しない」とするだけでなく、供述の外部的情況から具体的に特信情況を基礎づけることが求められる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和28(あ)4607 / 裁判年月日: 昭和30年8月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法321条1項各号に規定される「供述よりも信用すべき特別の情況(特信情況)」の存否の判断は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人が刑事事件について起訴された事案において、第一審判決が証拠能力を認めた供述証拠に対し、弁護人が公判期日における供述よりも信用すべき特…
事件番号: 昭和27(あ)5279 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不可分一体の関係にある供述については、その一部のみを切り離して証拠として採用することは許されないが、本件においては原判決が不利益な部分のみを恣意的に採用した事実は認められない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、原判決が被告人の供述のうち不可分一体となっている内容から、被告人に不利益な部分のみを…