判旨
外国人登録法に基づく証明書の呈示要求は、居住及び身分関係を識別するための事項を明らかにするに止まり、刑事上の不利益な事項についての供述を強要するものとはいえないため、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
司法警察職員が職務執行の必要上、外国人登録証明書の呈示を求めることが、自己に不利益な供述を強要するものとして憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について、供述を強要されないことを保障するものである。行政上の目的で行われる報告・提示義務が同項に違反するか否かは、その要求される内容が刑事上の被疑事実に関する不利益な事項につき供述を強要することになるか否かによって判断される。
重要事実
被告人は、司法警察職員より他人及び自己の犯罪事件捜査のため、外国人登録法に基づき外国人登録証明書の呈示を求められた。その際、被告人は他人の外国人登録証明書をあたかも自己のものであるかのように装って呈示した。この行為が同法18条1項9号に該当するとされたのに対し、被告人側は、呈示拒否が処罰対象である以上は呈示の強要にあたり、かつ呈示が犯罪の自白と同等の結果を招くものであるから、憲法38条1項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
外国人登録法に基づき証明書の呈示を求めることは、当該外国人の居住及び身分関係の識別に必要とする事項を明らかにすることを目的とする行政上の措置である。これは客観的な身分証明を求めるものに過ぎず、直ちに刑事上の被疑事実に関する不利益な事項につき、本人の意思に反して供述を強要する性質のものとは解されない。したがって、たとえ呈示を求めた背景に犯罪捜査の目的が含まれていたとしても、その呈示要求自体が直ちに自己負罪拒否特権を侵害するものとはいえない。
結論
警察職員が職務執行の必要上、外国人登録証明書の呈示を要求することは、憲法38条1項に違反しない。
事件番号: 昭和29(あ)1993 / 裁判年月日: 昭和33年1月16日 / 結論: 棄却
刑事事件の捜査上氏名住所を知るため外国人登録証明書の呈示を要求したとしても憲法第三八条第一項に違反しない。
実務上の射程
行政上の報告・提示義務と憲法38条1項の関係に関するリーディングケースの一つ。本判決の論理は、後の川崎民商事件(最判昭47.11.22)等でも展開される「供述」の範囲(刑事責任を追及されるおそれのある事項か、行政上の必要性か)を判断する枠組みの基礎となっている。答案上は、行政目的の義務が刑事手続と交錯する場面での違憲審査基準として活用できる。
事件番号: 昭和37(あ)1081 / 裁判年月日: 昭和37年10月19日 / 結論: 棄却
外国人登録法第一一項第一項の規定は不法に本邦に入つた者にも適用されるものと解すべきであり、憲法第三八条第一項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第二七七七号同三一年一二月六日大法廷判決、刑集一〇巻一二号一七六九頁)の趣旨に徴し明らかである。
事件番号: 昭和42(あ)2380 / 裁判年月日: 昭和43年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法入国した外国人に対し外国人登録法上の登録申請義務を課すことは、自己の不法入国の罪を供述させるのと同一の結果を招くものとはいえず、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、不法に日本に入国した外国人であった。外国人登録法3条1項は、本邦に在留する外国人に対し、新規の登録申請義務を…