刑事事件の捜査上氏名住所を知るため外国人登録証明書の呈示を要求したとしても憲法第三八条第一項に違反しない。
刑事事件の捜査上氏名住所を知るため外国人登録証明書の呈示を要求することと憲法第三八条第一項
外国人登録法1条,外国人登録法13条2項,外国人登録法18条1項7号,憲法38条1項,刑訴法198条2項
判旨
刑事事件の捜査において氏名や住所を把握するために外国人登録証明書の呈示を求めることは、憲法38条1項が保障する自己に不利益な供述の強要には当たらない。
問題の所在(論点)
刑事捜査において捜査官が氏名・住所を確認するために外国人登録証明書の呈示を求める行為が、憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項にいう「不利益な事項」とは、刑事上の責任を問われるおそれのある事項を指す。氏名や住所といった身元特定事項は、原則として同項にいう「不利益な事項」には該当しない。また、行政上の目的(身分関係の明確化等)に基づく適法な要求は、刑事捜査と別個の職務行為として許容される。
重要事実
被告人が刑事事件の被疑者として関与していた際、捜査官が被告人の居住・身分関係を明確にするため、外国人登録法に基づき登録証明書の呈示を求めた。これに対し弁護人側は、刑事捜査の一環としてなされた証明書の呈示要求は、憲法38条1項(自己負罪拒否特権)に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件における登録証明書の呈示要求は、被告人が朝鮮人であることが判明したため、外国人登録法に基づきその居住および身分関係を明確にする必要からなされたものであり、刑事事件の捜査とは別個の職務行為としてなされたといえる。また、氏名は原則として自己に不利益な事項に当たらないとする大法廷判例の趣旨に照らせば、刑事捜査上、氏名・住所を知るために呈示を要求したとしても、黙秘権の侵害には当たらないと解される。
結論
本件の呈示要求は、憲法38条1項に違反せず合憲である。
実務上の射程
自己負罪拒否特権の保障範囲に関する基礎的判例である。行政手続(外国人登録法等)に基づく質問や証言の義務づけが、後の刑事手続における黙秘権との関係で問題となる事案や、黙秘権が「自己の氏名」にまで及ぶかという論点に対して、否定的な結論を導く際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和53(あ)1587 / 裁判年月日: 昭和54年1月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】外国人登録法3条1項の新規登録申請義務は不法入国した外国人にも適用され、この義務の課受は自己に不利益な供述を強いるものではなく、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:不法に日本に入国した外国人が、外国人登録法3条1項に基づく新規登録の申請を行わなかった。これに対し、同法違反の罪が問われた…
事件番号: 昭和42(あ)2380 / 裁判年月日: 昭和43年3月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法入国した外国人に対し外国人登録法上の登録申請義務を課すことは、自己の不法入国の罪を供述させるのと同一の結果を招くものとはいえず、憲法38条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、不法に日本に入国した外国人であった。外国人登録法3条1項は、本邦に在留する外国人に対し、新規の登録申請義務を…