職権をもつて調査すると、本件についての上訴権回復を申立事件に対する東京高裁の決定並びに同事件および本件の一件記録によれば、被告人は、昭和二三年七月二〇日静岡地裁において保釈決定を受けた際その住居を静岡市abに制限されたが、被告人並びにその代人の責に帰すべからざる事由によつて被告人はその制限住居を知らず且つ被告人は該制限住居に居住したこともなかつたことを認めることができる。然るに、本件記録によれば、原審は、右の制限住居に宛てて本件公判期日の召喚状を発送し、その不送達となるや公判期日の召喚状及びその後の書類の送達はすべて公示送達によつてなし、そのため同第四回公判において被告人不出頭のまま旧刑訴四〇四条、刑訴法施行法二条の規定により被告人の陳述を聴かず審理した上判決をしたものであることを認めることができる。されば、原判決の審判には事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違反があつて、刑訴施行法三条の二、刑訴四一一条一号により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものといわなければならない。
刑訴法第四一一条第一号にあたる一事例。−制限住居の不備による送達の不完全から被告不出頭のまま審理判決した場合−
旧刑訴法330条,旧刑訴法404条,刑訴施行法2条,刑訴施行法3条の2,刑訴法411条1号
判旨
保釈決定による制限住居を被告人が知らず、かつ居住したこともない場合に、当該住居への送達不能をもって直ちに公示送達を行うことは、被告人の陳述権を侵害する違法な手続である。
問題の所在(論点)
被告人が不知かつ未居住の制限住居に対する送達不能を理由として、公示送達を行い被告人不出頭のまま審理を進めることは、適正な手続による審判を受ける権利を侵害し、違法となるか。
規範
公示送達の要件となる「住居、事務所及び居所が判明しないとき」(刑訴法54条、民訴法110条1項1号参照)の判断において、保釈の条件として指定された制限住居であっても、被告人が自己の責めに帰すべからざる事由によって当該制限住居を知らず、かつ実際に居住した実態がない場合には、その場所を基準に公示送達の手続を採ることは許されない。
重要事実
被告人は第一審での保釈決定に際し、静岡市内の特定の住所を制限住居として指定された。しかし、被告人およびその代人の責めに帰すべからざる事由により、被告人はこの制限住居の存在を知らず、実際に居住したこともなかった。原審は、この制限住居宛てに公判期日の召喚状を発送したが不送達となったため、これをもって住居不明と扱い、その後の書類をすべて公示送達により処理した。その結果、被告人が不出頭のまま控訴審の審理および判決が行われた。
あてはめ
本件において、被告人が制限住居を知らず、かつ居住実態もなかったことは、被告人側の過失によるものではない。このような状況下では、制限住居に書類が届かないことは当然に予想されることであり、これをもって直ちに被告人の住居が「判明しない」ものとして公示送達に付すことは、実質的な告知の機会を奪うに等しい。したがって、公示送達の前提となる調査が不十分であるか、または公示送達の要件を欠く状態で審理を強行したものといえる。
結論
被告人の陳述を聴かずに審理判決した原審の手続には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反がある。原判決を破棄し、差し戻すべきである。
実務上の射程
公示送達の適法性が争われる事案における射程を示す。形式的に制限住居等の登録上の住所へ送達を試みるだけでなく、被告人の不知や未居住といった個別事情がある場合に、安易に公示送達に付して不出頭審理を行うことの危険性を指摘する際に引用できる。
事件番号: 昭和42(あ)2527 / 裁判年月日: 昭和44年10月3日 / 結論: 破棄差戻
控訴審の第一回公判期日において、弁護人の出頭はあつたが被告人の出頭がないまま実質審理を行ない即日結審している場合において、同公判期日についての召喚手続または同公判期日の通知が被告人に対しなされていないときは、その訴訟手続は違法であり、原判決を破棄しなければいちじるしく正義に反する。
事件番号: 昭和25(れ)1387 / 裁判年月日: 昭和25年12月21日 / 結論: 破棄差戻
官報に掲載された第一回公判期日の召喚状の謄本に、被告人氏名「来海A」を、海Aと表示したのでは、公示送達の方式として召喚状の謄本を官報に掲載することを、適法に履踐したものということはできない。