判旨
検察官が上告を申し立てた後にこれを取り下げた場合において、被告人が上告審で支出した費用については、刑事訴訟法188条の2第1項等の趣旨に鑑み、被告人に補償されるべきである。
問題の所在(論点)
検察官が上告の申立てをした後にこれを取り下げた場合、刑事訴訟法188条の2第1項(無罪判決時の費用補償)に直接の規定はないが、上告審で生じた費用について被告人は補償を請求できるか。
規範
検察官による上告の申立てがなされ、その後に取り下げられたことにより被告事件が完結した場合、実質的に「無罪の判決が確定した」場合等と同様の状況が生じていると解される。したがって、刑事訴訟法188条の2第1項および同法371条、刑事訴訟規則234条の規定を準用または類推適用し、被告人が上告審において生じた必要経費について、国にその補償を求めることができる。
重要事実
請求人Aは昭和25年政令第325号違反被告事件について、一審または二審で無罪ないし有利な判決を受けたが、検察官から上告が申し立てられた。その後、検察官は昭和30年5月30日に当該上告申立てを取り下げた。これに対し、請求人Aは上告審において生じた費用(旅費・日当・宿泊料等)について、国に対して補償の請求を行った。
あてはめ
本件では、検察官が上告を申し立てたことで、請求人Aは応訴のために上告審での費用支出を余儀なくされた。その後、検察官自身が上告を取り下げたことで被告事件は完結しており、手続の帰趨としては被告人に不利益な結果とはなっていない。このような場合、刑事訴訟法371条(上訴の規定の準用)および規則234条の手続に則り、検察官の意見を聴取した上で、被告人が上告審のために支出した費用(本件では5,000円)を国が交付すべきであると解される。
結論
検察官の上告取下げにより、上告審で生じた費用について被告人の補償請求は認められる。本件請求人に対し、金5,000円を交付する。
事件番号: 昭和30(ひ)2 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: その他
最高裁判所大法廷において判決を言い渡した被告事件に関する上訴費用補償請求については、最高裁判所小法廷も刑訴第三七〇号第一項にいう「当該上訴裁判所であつた最高裁判所」にあたる。
実務上の射程
刑事訴訟法188条の2第1項の「無罪の判決が確定したとき」の文言を弾力的に解釈し、検察官による上訴取下げによって被告人が無罪と同様の地位を確定させた場合にも費用補償を認める実務上の根拠となる。答案上は、被告人の防御権保障と受益者負担の観点から、形式的な判決の有無にかかわらず補償を認めるべき場面として活用する。
事件番号: 昭和43(ひ)1 / 裁判年月日: 昭和44年1月25日 / 結論: その他
刑訴法三六八条は、検察官のみが上訴をした場合において、上訴が棄却され、または取り下げられる等、上訴が不当であつたことが判明したときに、当該審級の裁判所が被告人に対し、その審級において生じた費用を補償することを認めた規定であつて、検察官の上訴により破棄し差し戻されたその後の審級において、検察官の主張が窮極において否定され…
事件番号: 昭和34(し)45 / 裁判年月日: 昭和34年9月16日 / 結論: 棄却
第一審で無罪の判決があり、検察官のみが控訴したところ控訴審が第一審判決を破棄し、免訴の判決をした場合には、被告人は上訴費用の補償を請求することはできない。
事件番号: 昭和38(ひ)1 / 裁判年月日: 昭和38年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人又は弁護人が公判期日に出頭せず、かつ弁護活動を行った形跡がない場合には、刑事訴訟法369条所定の「補償すべき費用」は生じない。 第1 事案の概要:請求人である被告人は、当審の公判期日に出頭しなかった。また、被告人の弁護人についても、公判期日に出頭せず、かつ答弁書も提出していなかった。その他、…