刑訴法三六八条は、検察官のみが上訴をした場合において、上訴が棄却され、または取り下げられる等、上訴が不当であつたことが判明したときに、当該審級の裁判所が被告人に対し、その審級において生じた費用を補償することを認めた規定であつて、検察官の上訴により破棄し差し戻されたその後の審級において、検察官の主張が窮極において否定された場合にまで適用されるものではない。
刑訴法三六八条の法意
刑訴法368条,刑訴法370条,刑訴規則234条
判旨
刑事訴訟法368条による費用補償は、検察官の上訴が棄却・取下げ等により不当であったことが判明した場合に限定される。検察官の上訴により破棄差戻しがなされた後の審級において、最終的に無罪が確定した場合であっても、同条の補償対象にはならない。
問題の所在(論点)
検察官の上訴により破棄差戻しがなされた後の審級において、最終的に無罪判決が確定した場合に、刑事訴訟法368条に基づく費用補償の請求が可能か。
規範
刑事訴訟法368条は、検察官のみが上訴をした場合において、上訴が棄却され、または取り下げられる等、当該上訴自体が不当であったことが判明したときに、その審級において生じた費用を補償することを認めた規定である。検察官の上訴により原判決が破棄され、差し戻された後の審級において、最終的に検察官の主張が否定されるに至ったとしても、当然に同条の適用があるものではない。
重要事実
請求人らは、殺人被告事件(八海事件)の被告人として、二次控訴審で無罪判決を受けたが、検察官の上告により二次上告審で破棄差戻しとなった。差戻後の三次控訴審では有罪判決が出されたが、被告人側の再上告により三次上告審で破棄無罪判決が言い渡され、無罪が確定した。そこで、請求人らは同法368条に基づき、二次上告審、三次控訴審および三次上告審における費用の補償を請求した。
事件番号: 昭和30(ひ)1 / 裁判年月日: 昭和33年5月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】検察官が上告を申し立てた後にこれを取り下げた場合において、被告人が上告審で支出した費用については、刑事訴訟法188条の2第1項等の趣旨に鑑み、被告人に補償されるべきである。 第1 事案の概要:請求人Aは昭和25年政令第325号違反被告事件について、一審または二審で無罪ないし有利な判決を受けたが、検…
あてはめ
本件において、検察官の上訴は二次上告審で認められて破棄差戻しを勝ち取っており、上訴自体が棄却されたり取り下げられたりしたわけではない。その後の三次控訴審で有罪となり、最終的に三次上告審で無罪となったとしても、それは「検察官のみが上訴し、その上訴が不当であることが判明した」という同条の要件には該当しない。したがって、破棄差戻し後の審級における費用について同条を適用することはできないと解される。
結論
本件費用補償請求は理由がないため、棄却される。
実務上の射程
費用補償(刑事訴訟法368条)の射程を、検察官の上訴自体が排斥された審級に限定する判断を示した。検察官の上訴が一度成功(破棄差戻し)した以上、その後の審級で逆転無罪になっても、368条による補償は受けられないという厳格な解釈を示すものであり、弁護費用等の実費回収の可否を判断する際の基準となる。
事件番号: 昭和34(し)45 / 裁判年月日: 昭和34年9月16日 / 結論: 棄却
第一審で無罪の判決があり、検察官のみが控訴したところ控訴審が第一審判決を破棄し、免訴の判決をした場合には、被告人は上訴費用の補償を請求することはできない。
事件番号: 昭和30(ひ)2 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: その他
最高裁判所大法廷において判決を言い渡した被告事件に関する上訴費用補償請求については、最高裁判所小法廷も刑訴第三七〇号第一項にいう「当該上訴裁判所であつた最高裁判所」にあたる。
事件番号: 昭和38(ひ)1 / 裁判年月日: 昭和38年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人又は弁護人が公判期日に出頭せず、かつ弁護活動を行った形跡がない場合には、刑事訴訟法369条所定の「補償すべき費用」は生じない。 第1 事案の概要:請求人である被告人は、当審の公判期日に出頭しなかった。また、被告人の弁護人についても、公判期日に出頭せず、かつ答弁書も提出していなかった。その他、…
事件番号: 昭和53(し)58 / 裁判年月日: 昭和53年7月18日 / 結論: 棄却
再審請求手続において要した費用は、刑訴法一八八条の二による補償の対象とはならない。