判旨
支払手段や貨物の「輸入」の既遂時期は、税関の関門を通過して外部に持ち出すことによって完了する。したがって、空港の旅具検査所等で税関吏員に発見され、いまだ税関の実力的支配下にある状態では、既遂罪は成立しない。
問題の所在(論点)
支払手段や貨物を無申告・無免許で持ち込もうとした際、いかなる時点で「輸入」の既遂が認められるか。特に、外貨申告所を通過したが旅具検査所を通過していない段階での既遂成立の可否が問題となる。
規範
「輸入」とは、対象物を国内へ搬入する行為を指すが、税関が設置された空港等の場所においては、税関の関門を通過して外部にこれを持出すことによって完了(既遂)するものと解すべきである。客観的に税関の実力的支配を脱していない段階では、未遂にとどまる。
重要事実
被告人は、釜山から米国軍票を携帯して羽田空港に到着した。外貨申告手続において軍票を申告せずに申告所を通過したが、その後の旅具検査所(関税法上の検査場所)における税関吏員の検査により、着衣に隠匿していた軍票を発見された。このため、被告人は軍票を外部に持ち出すことができなかった。
あてはめ
羽田空港等の税関空港では、旅客は検疫・入国管理・外貨申告を経て、最後に旅具検査所で輸入免許を受けて初めて携帯品を自由に外部へ持ち出せる運用となっている。本件被告人は外貨申告所こそ通過したものの、旅具検査所において軍票を発見されており、依然として軍票は税関の実力的支配下にあったといえる。したがって、支払手段(軍票)の輸入は完了しておらず、既遂には至っていない。
結論
被告人の行為は、関税法上の無免許輸入未遂罪を構成するにとどまる。また、支払手段の輸入について未遂処罰規定を欠く外国為替及び外国貿易管理法については、無罪となる。
実務上の射程
事件番号: 昭和29(あ)3810 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: その他
一 米国軍票を密輸入しようとして着衣等に隠匿して羽田空港税関内外貨申告所を通過しても、同税関内旅具検査所において職員に発見されたときは、未だ外国為替及び外国貿易管理法第四五条、第七〇条第一九号の無許可輸入罪は成立しない。 二 刑法第四八条二項の規定の適用が除外されている関税法違反の罪並びに外国為替並びに外国貿易管理法違…
「輸入」の既遂時期を、物理的な入国や境界線の通過ではなく、税関の監視・管理体制(実力的支配)から脱した時点とする判断枠組みは、密輸事案の既遂・未遂の区別において極めて重要な基準となる。
事件番号: 昭和31(あ)1069 / 裁判年月日: 昭和37年10月3日 / 結論: 破棄自判
米国軍票等を密輸入しようとして着衣等に隠匿し税関空港内為替管理所(外貨申告所)を通過しても、同税関内旅具検査所において発見され、これを税関外に持ち出すに至らなかつたときは(判文参照)、いまだ外国為替及び外国貿易管理法(昭和三三年法律第一五六号による改正前のもの)第四五条、第七〇条第一九号の無許可輸入罪は成立しない。
事件番号: 昭和32(あ)597 / 裁判年月日: 昭和34年8月8日 / 結論: 棄却
一 外国為替及び外国貿易管理法第四五条にいう支払手段は、適法に取得されたものだけにこれを限局して解すべきものではない。 二 同条にいう輸出は、それが空路による場合は、外国向けの航空機に同条所定の物件を積載することによつて既遂となるものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和33(あ)258 / 裁判年月日: 昭和33年10月6日 / 結論: 棄却
関税法第一一一条第一項にいう「貨物を輸入」する行為は、海上にあつては、正当な通関手続を経ないで外国貨物を本邦へ陸揚げすることにより既遂となる。
事件番号: 昭和35(あ)704 / 裁判年月日: 昭和37年10月30日 / 結論: 棄却
一 米国紙幣および金塊は、関税法第一一一条第一項、第一一二条第三項にいう貨物に含まれる。 二 米国紙幣の取得者が、外国為替等集中規則第三条所定の集中義務を履行する意思を有せず、その取得した紙幣をひそかに日本円に交換することを依頼して他人に手交するなど、右集中義務の履行と全く相い容れない処分行為をした場合においては、その…