一 米国軍票を密輸入しようとして着衣等に隠匿して羽田空港税関内外貨申告所を通過しても、同税関内旅具検査所において職員に発見されたときは、未だ外国為替及び外国貿易管理法第四五条、第七〇条第一九号の無許可輸入罪は成立しない。 二 刑法第四八条二項の規定の適用が除外されている関税法違反の罪並びに外国為替並びに外国貿易管理法違反の罪につき、第一審判決が各別に罰金を言渡し、控訴審がこれを支持して、控訴を棄却した場合において、部分を限らない上告の申立を受けた上告審が、後者は犯罪を構成しないとするときは、第一審判決中当該部分およびこれを支持した原判決の判断部分を破棄し、当該部分の公訴事実につき被告人を無罪とし、前者の罪については上告を棄却すべきものである。
一 米国軍票を羽田空港到着の航空機により密輸入しようとして同税関内で発見された場合に支払手段の無許可輸入財は成立するか 二 一部破棄無罪、一部上告破棄を言渡すべき事例
旧関税法(明治32年法律61号)76条,旧関税法(明治32年法律61号)82条ノ4,外国為替及び外国貿易管理法45条,外国為替及び外国貿易管理法70条19号,外国為替管理令19条,昭和27年政令127号(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約3条に基く行政協定の実施に伴う外国為替管理令等の臨時特例に関する政令)4条2項,刑法48条2項
判旨
外国為替及び外国貿易管理法上の支払手段の「輸入」とは、当該支払手段が税関の実力的管理を脱することを要する。したがって、空港の外貨申告所を通過しても、その後の旅具検査所において税関職員に発見された場合は、いまだ輸入の既遂には至らず、処罰規定のない未遂にとどまる。
問題の所在(論点)
空港において携帯する支払手段(軍票等)を無申告で持ち込もうとした場合、どの段階をもって外国為替及び外国貿易管理法上の「輸入」の既遂と解すべきか。外貨申告所を通過した時点で既遂となるのか、それとも税関の検査を全て終えて管理を脱した時点を要するのか。
規範
「輸入」の既遂時期については、対象物が税関(またはこれに準ずる保税地域等)による実力的管理を脱し、国内の流通に供され得る状態に至った時点をもって判断すべきである。外貨等の支払手段についても、単に申告所等の特定のチェックポイントを通過したことのみをもって直ちに輸入の既遂を認めることはできず、税関の全行程(旅具検査等)を終了してその管理下を離れたか否かを基準とする。
事件番号: 昭和30(あ)341 / 裁判年月日: 昭和33年3月14日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】支払手段や貨物の「輸入」の既遂時期は、税関の関門を通過して外部に持ち出すことによって完了する。したがって、空港の旅具検査所等で税関吏員に発見され、いまだ税関の実力的支配下にある状態では、既遂罪は成立しない。 第1 事案の概要:被告人は、釜山から米国軍票を携帯して羽田空港に到着した。外貨申告手続にお…
重要事実
被告人は、米国軍票3360ドルを隠匿して韓国より空路で羽田空港に到着した。入国手続後、外貨申告所において右軍票を申告せずに通過したが、その直後に設置されている旅具検査所において税関職員による検査を受けた際、着衣及び携帯鞄内に隠匿していた軍票を発見された。第一審及び原審は、外貨申告所を無申告で通過した時点で外為法違反(無申告輸入)の既遂が成立すると判断した。
あてはめ
羽田空港の構造上、旅客は外貨申告所を通過しても、その後の旅具検査所において旅具検査を受け輸入免許を得るまでは、携帯品を外部へ持ち出すことができない施設構造となっている。このような状況下では、旅客の携帯品はいまだ税関の実力的管理の下に置かれているといえる。本件被告人は、外貨申告所こそ通過したものの、続く旅具検査所において軍票を発見されており、当該軍票は依然として税関の管理下にあったと解される。したがって、外為法上の「輸入」は未遂の段階にある。
結論
外為法上の輸入罪は既遂に至っておらず、同法には支払手段の輸入未遂を処罰する規定が存在しないため、本件行為について外為法違反は成立しない(無罪)。
実務上の射程
「輸入」の定義および既遂時期に関するリーディングケース。関税法上の「輸入」概念とも密接に関連し、空港・港湾等の保税的性格を持つ場所での既遂時期は「税関の実力的管理の逸脱」を基準とする実務上重要な枠組みを提供している。答案上は、既遂時期の判断において施設の物理的構造や通関手続の順序を重視する視点を示す際に活用すべきである。
事件番号: 昭和31(あ)1069 / 裁判年月日: 昭和37年10月3日 / 結論: 破棄自判
米国軍票等を密輸入しようとして着衣等に隠匿し税関空港内為替管理所(外貨申告所)を通過しても、同税関内旅具検査所において発見され、これを税関外に持ち出すに至らなかつたときは(判文参照)、いまだ外国為替及び外国貿易管理法(昭和三三年法律第一五六号による改正前のもの)第四五条、第七〇条第一九号の無許可輸入罪は成立しない。
事件番号: 昭和32(あ)597 / 裁判年月日: 昭和34年8月8日 / 結論: 棄却
一 外国為替及び外国貿易管理法第四五条にいう支払手段は、適法に取得されたものだけにこれを限局して解すべきものではない。 二 同条にいう輸出は、それが空路による場合は、外国向けの航空機に同条所定の物件を積載することによつて既遂となるものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和36(あ)1198 / 裁判年月日: 昭和40年11月26日 / 結論: 棄却
一 「本件の場合は、右支払当時貨物は特定していたと認められるばかりか、外国為替及び外国貿易管理法第二八条にいう外国にある財産は特定し得るものであれば足り、必ずしも支払時において特定していることを要しない」旨の原判断は正当である。 二 同条にいわゆる関連支払の禁止は、代償支払禁止の補完的規定であるから、外国にある財産取得…
事件番号: 昭和35(あ)704 / 裁判年月日: 昭和37年10月30日 / 結論: 棄却
一 米国紙幣および金塊は、関税法第一一一条第一項、第一一二条第三項にいう貨物に含まれる。 二 米国紙幣の取得者が、外国為替等集中規則第三条所定の集中義務を履行する意思を有せず、その取得した紙幣をひそかに日本円に交換することを依頼して他人に手交するなど、右集中義務の履行と全く相い容れない処分行為をした場合においては、その…