原判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと、並びに、所論学校教育法一一条違反行為が他面において刑罰法規に触れることがあるものとしたことは、いずれも、正当として是認することができる。
一 教育上必要な懲戒行為としてなした暴行の違法性 二 学校教育法第一一条の刑罰法規との関係
刑法35条,刑法208条,学校教育法11条
判旨
教師による殴打等の暴行は、たとえ教育上の懲戒目的であっても、学校教育法11条但書が禁止する体罰に該当し、正当業務行為として違法性が阻却されることはない。
問題の所在(論点)
教師が教育的意図に基づいて行う懲戒行為としての「殴打」が、刑法208条の暴行罪に該当するか、また学校教育法11条但書の体罰禁止規定との関係で違法性が阻却されるか。
規範
教師が児童・生徒に対して行う「殴打」のような暴行行為は、仮にそれが教育上必要な懲戒行為として行われたものであったとしても、違法性が阻却されることはなく、刑罰法令の対象となる。学校教育法11条が禁止する体罰に該当する行為は、他面において刑罰法規に触れるものである。
重要事実
被告人両名(教師)が、児童等に対し、単なる軽いノックの程度を超えた殴打等の行為に及んだ事案。被告人側は、教育上の懲戒行為であり違法性が阻却される旨を主張して上告した。
事件番号: 昭和38(あ)2188 / 裁判年月日: 昭和40年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合活動の一環として行われた行為であっても、暴行罪や脅迫罪等の刑法上の構成要件に該当する暴力的な態様を伴う場合には、労働組合法1条2項の正当行為として刑法35条による違法性阻却は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合活動の一環として特定の行為に及んだが、その態様が刑法上の暴行罪…
あてはめ
本件における行為は、形式的に軽くノックした程度に止まらず、刑法208条に該当する「暴行」と認められる。このような殴打行為は、たとえ懲戒目的であっても学校教育法11条但書が禁ずる体罰に該当し、法的に許容される懲戒の範囲を逸脱している。したがって、正当な懲戒行為としてその違法性を阻却することはできない。
結論
被告人両名の行為は暴行罪を構成し、教育上の懲戒であることを理由に違法性が阻却されることはないため、有罪とした原判決は正当である。
実務上の射程
教師の懲戒権(学校教育法11条本文)の限界を画する判例である。殴打等の身体的苦痛を与える行為は、同条但書の「体罰」に該当し、正当業務行為(刑法35条)としての違法性阻却を一切認めないという厳格な態度を示している。
事件番号: 昭和26(あ)5173 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】教化説法の方便として行われた暴行であっても、正当な動機や証拠が認められない限り、暴行罪としての違法性は阻却されない。 第1 事案の概要:被告人は、当時15歳であった被害者(A)に対し、何らかの事由により2回にわたって殴打した。弁護側は、本件行為が被害者への激励の際の過失行為、あるいは教化説法の方便…
事件番号: 昭和27(あ)6714 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
刑法第二〇八条にいわゆる暴行とは、人の身体に対し不法な攻撃を加えることをいい、加害者が、室内において相手方の身辺で大太鼓、鉦等を連打し、同人等をして頭脳の感覚が鈍り意識もうろうたる気分を与え、または、脳貧血を起させたりする程度に達せしめたる場合をも包含するものと解すべきである。
事件番号: 昭和38(あ)1052 / 裁判年月日: 昭和40年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書の「暴力の行使」に該当するか否かは、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものであるか否かによって判断される。社会通念上の限度を超えると認められる場合は、刑法上の正当行為(同法35条)としての違法性阻却を認めない。 第1 事案の概要:被告人らの原判示所為(具体的な事案…
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…