所論A丸の没収につきその所有者が何人であるかの事実は、刑訴三三五条にいう罪となるべき事実に属しないから、これを認めた証拠を判決に挙示する必要はない。
関税法による没収船舶の所有者認定の証拠説示の要否
旧関税法(明治32年法律61号―昭和23年法律107号による改正後のもの)83条1項,関税法(昭和29年法律61号)118条1項,刑法19条,刑訴法335条1項
判旨
没収の対象となる「犯罪行為の用に供したる」物件には、既遂行為のみならず、未遂行為や予備行為の用に供した物件も含まれる。また、没収対象物の所有者が誰であるかは刑事訴訟法335条1項にいう「罪となるべき事実」に属さないため、判決でその証拠を挙示する必要はない。
問題の所在(論点)
1. 没収の要件である「犯罪行為の用に供した」物件に、予備・未遂行為の用に供したものも含まれるか。2. 没収対象物の所有関係は、刑事訴訟法335条1項に基づき判決に証拠を付して明示すべき「罪となるべき事実」に含まれるか。
規範
1. 旧関税法83条1項(現行関税法等も同様の解釈が可能)にいう「犯罪行為の用に供した」物件とは、既遂行為のみならず、未遂行為および予備行為の用に供したものを含む。2. 没収物件の所有関係に関する事実は、被告人の有罪判決において明示を要する「罪となるべき事実」(刑事訴訟法335条1項)には当たらない。
重要事実
被告人らは、関税法違反(密輸出等)の罪に問われ、その犯罪行為に使用された船舶(A丸)の没収が言い渡された。被告人側は、(1)当該船舶が未遂・予備段階で使用されたに過ぎない場合は没収できないのではないか、(2)判決において船舶の所有者が誰であるかを認定するための証拠が十分に挙示されていないことは違法である、と主張して上告した。
あてはめ
1. 犯罪の実行を容易にし、または促進する目的で使用された物件は、行為が既遂に至るか否かを問わず、その危険性や社会防衛的観点から没収の対象とすべきである(旧関税法83条1項の解釈)。2. 刑事訴訟法335条1項が証拠による証明を求める「罪となるべき事実」とは、犯罪の構成要件に該当する具体的記述を指す。没収は刑の付加的処分であり、その対象物の所有権帰属は犯罪成立そのものを構成する事実ではないため、証拠の挙示までは必要とされない。
結論
1. 予備・未遂の用に供した船舶も没収できる。2. 没収物の所有者の事実は「罪となるべき事実」ではないため、判決にその証拠を挙示する必要はない。上告棄却。
実務上の射程
没収の対象範囲(予備・未遂を含む点)および、判決書における事実摘示の程度を画した判例である。答案上は、没収の適否が争点となる場面で、既遂に至っていない準備段階の物件であっても没収が可能である根拠として、または証拠による認定が必要な範囲(335条1項)を限定する文脈で使用する。
事件番号: 昭和37(あ)1443 / 裁判年月日: 昭和37年11月15日 / 結論: 棄却
一 弁護人の所論各点に関する原審の判断は正当として首肯できる。 二 (原判決の要旨)時計の如くその銘柄、型式、石数、側等による種別の多数に上る品物にあつては、それらによつて他から完全に区別し得る程度に表示するのは甚だ困難であつて、判決にこれを表示するに当つては、要するに被告人が同一物につき再度起訴される虞れがなく、又そ…
事件番号: 昭和29(あ)2757 / 裁判年月日: 昭和33年2月13日 / 結論: 棄却
犯人が旧関税法の密輸出行為の用に供した第三者所有の船舶については、所有者がその占有を犯人に移す際、それが密輸出の用に供せられることの事情につき善意であつたときは、旧関税法第八三条第一項により没収するをえないものである。