当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第三八九号、同三二年一二月二五日大法廷判決、刑集一一巻一四号三三七七頁)の趣旨によれば、出入国管理令六〇条は出国それ自体を法律上制限するものではなく、単に出国の手続に関する措置を定めたものであり、事実上かかる手続的措置のために外国旅行の自由が制限せられる結果を招来するような場合があるとしても、出入国の公正な管理を行う目的を達成する公共の福祉のために設けられたもので、憲法二二条二項に違反するものではないと解すべきであり、旅券法の運用の違憲を云為して出入国管理令六〇条の違憲を主張する所論は、採るをえない。
出入国管理令六〇条の合憲性。
出入国管理令60条,憲法22条2項
判旨
憲法22条2項の外国移住の自由には一時的な外国旅行の自由も含まれるが、無制限ではなく、公共の福祉による合理的な制限に服する。出入国管理令60条の定める出国手続は、出入国の公正な管理という公共の福祉を達成する目的のために設けられた合理的な制限であり、同条項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 憲法22条2項の「外国に移住する自由」に一時的な外国旅行の自由が含まれるか。 2. 有効な旅券を持たない者の出国を禁止する出入国管理令60条の規定は、憲法22条2項に違反するか。
規範
憲法22条2項が保障する「外国に移住する自由」には、外国へ一時旅行する自由も含まれると解される。もっとも、この自由も無制限に許されるものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服する。また、行政上の手続規定が事実上の自由制限を招来する場合であっても、それが公正な出入国管理という目的を達成するための必要かつ合理的な範囲内であれば、憲法に適合する。
重要事実
被告人らは、世界民主青年祭典等に参加するためソビエト連邦等への渡航を計画し、旅券の発給を申請したが、政府によってこれを拒否された。被告人らは、有効な旅券を受けないまま出国しようとしたとして、出入国管理令(当時の名称。現・出入国管理及び難民認定法)60条違反の罪に問われた。これに対し被告人らは、同条の規定は憲法22条2項が保障する外国旅行の自由を侵害し違憲であると主張して争った。
あてはめ
まず、憲法22条2項の趣旨に照らせば、一時的な外国旅行も保障の対象に含まれる。しかし、国際社会において円滑な出入国を確保するためには、国家による適切な管理が必要不可欠である。出入国管理令60条が定める出国手続は、それ自体が出国を全面的に禁止するものではなく、あくまで「出入国の公正な管理」という公共の福祉を達成するための手続的措置である。したがって、この手続によって事実上外国旅行の自由が制限される結果が生じるとしても、その目的の正当性および手段の合理性に照らせば、憲法が許容する範囲内の制限といえる。
結論
憲法22条2項は外国旅行の自由を包含するが、出入国管理令60条による制限は公共の福祉に基づく合理的なものであるため、同条は憲法22条2項に違反しない。
実務上の射程
移動の自由(22条)の具体的保障範囲として「外国旅行の自由」を認める際の主要な根拠となる。ただし、本判決はあくまで手続規定(出入国管理令)の合憲性を判示したものであり、旅券法に基づく「発給拒否処分」自体の合憲性については、後に帆足計事件(最大判昭33・9・10)等の枠組みで判断される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和36(あ)1441 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】日本人の海外渡航の自由は憲法22条2項により保障されるが、出入国管理令(当時)が定める出国の手続的措置は、出入国の公正な管理という公共の福祉に基づく合理的な制限であり、同条項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、日本から出国する際に出入国港において入国審査官から旅券に出国の証印を受けなければ…
事件番号: 昭和39(あ)911 / 裁判年月日: 昭和40年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】出入国管理令による出国手続の義務付け及び旅券法に基づく旅券の発給制限は、憲法22条2項が保障する外国移住の自由を不当に制限するものではなく、公共の福祉による合理的な制限として合憲である。 第1 事案の概要:被告人は、有効な旅券を所持せず、かつ出入国管理令に基づく正規の出国審査手続を経ることなく日本…