判旨
第三者の所有物を没収する場合、当該第三者が犯罪行為の用に供されることをあらかじめ知っていた(知情)ことが必要であり、これを欠く没収は違法である。
問題の所在(論点)
被告人以外の第三者が所有する物件を没収するにあたり、当該第三者の「知情」を要件とする必要があるか。また、その事実認定を欠いた没収判決の適法性が問われた。
規範
旧関税法83条1項(現在の関税法118条1項に相当)の没収規定において、対象物が被告人以外の第三者の所有に属する場合、当該第三者が犯罪行為が行われること(または供されること)をあらかじめ知っており、かつ犯罪時から引き続き所有している場合に限り、没収が許容される。この解釈により、憲法29条の財産権保障との整合性が保たれる。
重要事実
被告人らは、第三者から内国航路に使用するとの名目で船舶を借り受け、これを密輸出幇助の犯罪行為に使用した。第一審および控訴審は、船舶の所有者である第三者が、当該船舶が犯罪の用に供されることを知っていたか否か(知情の有無)を明確に認定しないまま、被告人らから当該船舶を没収する旨を言い渡した。これに対し被告人側が、第三者所有物を没収することは憲法違反であるとして上告した。
あてはめ
本件では、船舶の所有者が被告人らに対し、密輸出ではなく内国航路に使用するとの虚偽の使途を信じて貸し出した可能性がある。それにもかかわらず、下級審は所有者が「あらかじめ犯罪の用に供されることを知っていたか」という知情の点について審理を尽くしておらず、客観的な知情の事実を確定していない。このような認定を欠いたまま没収を命じることは、関税法の解釈適用を誤り、ひいては適正な没収の前提要件を欠くものであるといえる。
結論
第三者所有物の没収には、所有者の知情が必要である。これを確認せずに没収を認めた原判決及び第一審判決は、審理不尽の違法があり、破棄を免れない。
実務上の射程
刑事訴訟において第三者所有物を没収する際、当該第三者に告知・弁解の機会を与えるべきとした「第三者没収事件大法廷判決(昭和37年)」に先立ち、実体法上の要件として「第三者の知情」を厳格に求めた点に意義がある。答案上は、没収の適法性を論じる際、憲法29条・31条の観点から所有者の主観的要件(予見可能性・帰責性)を検討する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和28(あ)3657 / 裁判年月日: 昭和33年4月1日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】第三者の所有物を没収するには、当該第三者が犯罪行為の用に供されることをあらかじめ知っており、かつ犯罪時から引き続き当該物件を所有していることが必要である。 第1 事案の概要:被告人ら8名は、貨物を沖縄へ不法輸出する目的で船舶「H丸」及びその附属具を用いて実行に着手したが、発覚し検挙された(関税法違…
事件番号: 昭和29(あ)1420 / 裁判年月日: 昭和33年3月18日 / 結論: その他
第一審判決が無免許輸入未遂幇助の事実について犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所がその点について何ら事実の取調をすることなく右判決を破棄し、訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて直ちに右無免許輸入未遂幇助の事実についても有罪の判決をすることは、たとえ第一審判決中に被告人の同一船…
事件番号: 昭和29(あ)2757 / 裁判年月日: 昭和33年2月13日 / 結論: 棄却
犯人が旧関税法の密輸出行為の用に供した第三者所有の船舶については、所有者がその占有を犯人に移す際、それが密輸出の用に供せられることの事情につき善意であつたときは、旧関税法第八三条第一項により没収するをえないものである。