第一審判決が無免許輸入未遂幇助の事実について犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所がその点について何ら事実の取調をすることなく右判決を破棄し、訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて直ちに右無免許輸入未遂幇助の事実についても有罪の判決をすることは、たとえ第一審判決中に被告人の同一船舶による往路の無免許輸出幇助の所為並びに共同被告人による復路の右無免許輸入未遂の所為が認定されていたところで刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。
刑訴法第四〇〇条但書に違反する一事例
刑訴法400条
判旨
第三者の所有に属する船舶の没収は、当該第三者が犯罪行為の用に供されることをあらかじめ知っており、かつ犯罪時から引き続き当該船舶を所有している場合に限られる。また、第一審の無罪判決を事実誤認を理由に破棄して有罪とするには、刑事訴訟法400条但書に基づき、事実の取調べを経る必要がある。
問題の所在(論点)
1. 第三者の所有に属する物件(船舶)を没収するための要件。特に、所有者の主観的態様が没収の可否にどう影響するか。 2. 第一審が無罪とした事実について、控訴審が新たな事実の取調べを行わずに逆転有罪判決を下すことの可否(刑事訴訟法400条但書の解釈)。
規範
1. 旧関税法83条1項(現行関税法118条1項参照)に基づく第三者所有物の没収は、無条件に許されるのではなく、当該第三者が、船舶が犯罪行為の用に供されることをあらかじめ知っており、かつ犯罪時から引き続き当該船舶を所有していた場合に限り認められる。 2. 刑事訴訟法400条但書の趣旨に基づき、第一審が犯罪の証明がないとして無罪とした被告人に対し、控訴審が事実の取調べをすることなく、訴訟記録及び第一審の証拠のみによって逆転有罪判決をすることは許されない。
重要事実
被告人C及びEは、密輸に使用された船舶H及びJを占有していたが、当該船舶はそれぞれ第三者I及びKの所有物であった。原審は、船主らが不知であっても過失があるとして没収を維持又は附加した。また、被告人F及びGについては、第一審が密輸入幇助につき無罪としたが、原審は事実の取調べを行わず、前科調書の取調べ及び第一審の供述調書等の評価のみによって、往路の輸出幇助と復路の輸入幇助が不可分であるとして逆転有罪を言い渡した。
あてはめ
1. 船舶の没収について、原審は船主に「過失」があることを理由に没収を認めたが、判例の基準によれば、所有者が犯罪供用の事実を「あらかじめ知っていること(悪意)」が必要である。したがって、過失の有無を基準とした原審の判断は法令の解釈を誤っている。 2. 密輸入幇助の有罪認定について、原審は事実の取調べとして被告人Fの前科調書を調べたに過ぎない。一審が無罪とした復路の密輸入幇助について、往路の事実から直ちに推認することは、実質的な事実の取調べを欠いており、刑訴法400条但書に違反する。
結論
1. 第三者所有物の没収には、当該第三者の悪意が必要であるため、没収を維持・附加した原判決は違法であり破棄を免れない。 2. 事実の取調べを経ない逆転有罪判決は刑訴法400条但書に反し、原判決は破棄されるべきである。
実務上の射程
刑事手続における没収の対象範囲(第三者の権利保護)と、控訴審における事実認定の限界(逆転有罪の制約)を示す重要判例である。特に控訴審の逆転有罪に関する判示は、直接主義・口頭主義の観点から答案上頻出の規範である。
事件番号: 昭和28(あ)3657 / 裁判年月日: 昭和33年4月1日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】第三者の所有物を没収するには、当該第三者が犯罪行為の用に供されることをあらかじめ知っており、かつ犯罪時から引き続き当該物件を所有していることが必要である。 第1 事案の概要:被告人ら8名は、貨物を沖縄へ不法輸出する目的で船舶「H丸」及びその附属具を用いて実行に着手したが、発覚し検挙された(関税法違…
事件番号: 昭和29(あ)2757 / 裁判年月日: 昭和33年2月13日 / 結論: 棄却
犯人が旧関税法の密輸出行為の用に供した第三者所有の船舶については、所有者がその占有を犯人に移す際、それが密輸出の用に供せられることの事情につき善意であつたときは、旧関税法第八三条第一項により没収するをえないものである。