小学四年生の少女に対する強制わいせつ事件につき被告人が犯人であるとする右少女の供述等の信用性を肯定した原審の有罪判決が破棄され第一審の無罪判決が維持された事例
刑法176条後段,刑訴法411条3号
判旨
目撃証言や犯人識別供述の信用性は、対象者の属性、面通し状況、記憶喚起の過程等を慎重に吟味すべきであり、自白も客観的証拠との矛盾や秘密の暴露の有無を厳格に判断すべきである。
問題の所在(論点)
犯人と被告人の同一性が唯一の争点となる事案において、被暗示性の強い年少者の供述、記憶喚起が不自然な目撃証言、および客観的事実と矛盾する自白に基づき、犯罪の証明(刑訴法336条)が認められるか。
規範
人物の同一性識別供述(目撃証言)の信用性は、(1)観察条件の良否(時間・距離等)、(2)供述者の属性(年少者の被暗示性等)、(3)識別手続の妥当性(単独面通しの有無等)、(4)変遷の合理性を総合的に考慮して判断する。また、自白の信用性は、(1)客観的事実との合致、(2)供述の具体性・詳細性、(3)変遷の動機の合理性に加え、真犯人しか知り得ない「秘密の暴露」の有無を重視して判断する。
重要事実
被告人が、マンションの踊り場等で9歳の女児Aに対しわいせつ行為をしたとして起訴された事案。Aは当初犯人を知らなかったが、友人との会話や管理人の指摘を経て被告人を犯人と特定し、単独面通しで断定した。管理人Bも当初は犯人を外部の人間と認識していたが、後に被告人だと供述を変遷させた。被告人は捜査段階で自白したが、服装や所持品の供述が被害者Aの供述と食い違っており、公判では否認に転じた。
あてはめ
まず、Aの供述は、被暗示性の強い年少者によるものであり、かつ誘導の危険がある単独面通しを経ているため、暗示を受けた可能性が否定できない。第一審から原審にかけて供述が具体的・強固になる点も不自然である。次に、管理人Bの供述は、当初犯人を「外部の者」として応対した言動と矛盾し、数日後に突然被告人だと確信した過程も不自然で信用性が低い。さらに、被告人の自白は服装や所持品においてAの供述と重要な食い違いがあり、秘密の暴露も存在しないため、Aの具体的供述内容をなぞっただけの疑いがある。
事件番号: 平成20(あ)333 / 裁判年月日: 平成22年7月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯人の識別に関する目撃供述の信用性判断、および身体的疾患が犯行に与える影響についての事実誤認の有無が争われた事例。 第1 事案の概要:被告人は駅ホームで女性のスカート内に携帯電話を差し入れたとして都迷惑防止条例違反で起訴された。被害者は、背後から犯人に袖を掴まれ、その後も断続的に犯人の姿を視認して…
結論
主要な証拠であるA・Bの供述および被告人の自白はいずれも信用性に疑いがあり、被告人を犯人と断定するには合理的な疑いが残る。したがって、無罪とした第一審判決が相当である。
実務上の射程
犯人識別供述の信用性が争点となる事案(特に痴漢や強制わいせつ)において、あてはめの指標として極めて有用である。単独面通しの危険性、年少者の被暗示性、目撃者の初期認識との矛盾、自白と客観証拠のズレといった視点は、証拠の証明力を争う際の定番の論法となる。
事件番号: 平成3(あ)505 / 裁判年月日: 平成6年12月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】供述に細部の矛盾や混乱があっても、被害等の大筋で一貫性があり、状況証拠等と整合するならば、その信用性を否定すべきではない。原判決が些末な不一致を理由に証言全体の信用性を否定したことは、経験則に照らし著しく合理性を欠き、重大な事実誤認の疑いがある。 第1 事案の概要:深夜、路上を通行中の女性Aが、被…
事件番号: 平成19(あ)1785 / 裁判年月日: 平成21年4月14日 / 結論: 破棄自判
1 上告審における事実誤認の主張に関する審査は,原判決の認定が論理則,経験則等に照らして不合理かどうかの観点から行うべきである。 2 被告人が満員電車内で女性Aに対して痴漢行為をしたとされる強制わいせつ被告事件について,被告人が一貫して犯行を否認しており,Aの供述以外にこれを基礎付ける証拠がなく,被告人にこの種の犯行を…
事件番号: 平成21(あ)1125 / 裁判年月日: 平成23年9月14日 / 結論: 棄却
1 被害者の証人尋問において,検察官が,証人から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するため,証拠として採用されていない捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を示すことを求めた場合において,写真の内容が既にされた供述と同趣旨のものであるときは,刑訴規則199条の12に基づきこれを許可…
事件番号: 昭和27(あ)5163 / 裁判年月日: 昭和29年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意性に疑いのある自白は証拠能力を欠くが、被告人及び弁護人が同意し、かつ記録上任意にされたものでないと疑うべき理由がない場合には、証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が司法警察員に対して行った各供述(自白調書及び上申書)について、弁護人は取調官による暴行、強制、誘導に基づいたものであ…