書記官忌避申立却下の裁判は、当該書記官の関与する被告事件の審理が終了し、判決宣告を終つた後においては、これを取り消す実益が失われるものと解するのが相当である。
裁判所書記官忌避申立却下の裁判と不服申立の利益
刑訴法25条,刑訴法26条,刑訴法433条
判旨
裁判所書記官の忌避申立却下の裁判に対する不服申立ては、当該書記官が関与する被告事件の審理が継続する限り取り消す実益があるが、判決宣告をもって審理が終了した後は、その実益を失い不適法となる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法上、裁判所書記官の忌避申立却下の裁判に対して不服を申し立てる際、本案事件の判決が宣告された後であっても、当該却下裁判の取消しを求める「法律上の利益(不服申立ての利益)」が認められるか。
規範
裁判所書記官に対する忌避申立却下の裁判に対する不服申立てが適法であるためには、当該書記官が関与する被告事件の審理が継続しており、当該裁判を取り消す「実益」(訴えの利益)が存在することを要する。判決宣告によって審理が終了した場合には、もはや当該手続に関与する書記官を排除する実益が失われるため、当該申立ては法律上の利益を欠き、不適法となる。
重要事実
名誉毀損被告事件の被告人である申立人は、裁判所書記官を忌避する旨の申立てを行った。地方裁判所は当該申立てを理由がないとして却下する裁判を行い、引き続き審理を継続した上で判決を宣告した。申立人はこの却下裁判を不服として抗告(特別抗告)を申し立てたが、その時点ですでに本案事件の判決が宣告されていた。
事件番号: 昭和31(し)34 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき予備的訴因の追加を命ずることは、審理が相当程度進捗した段階で行われる限り、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、裁判官の忌避事由(刑訴法21条1項)を構成しない。 第1 事案の概要:傷害致死等被告事件の第一審において、裁判所(合議体)が主たる訴因…
あてはめ
本件において、申立人が書記官の忌避を申し立てたが、原裁判所はこれを却下し、その後、本案である名誉毀損被告事件について判決を宣告している。忌避制度は不公平な関与を排除し手続の公正を確保するものであるが、判決宣告により当該事件の審理は終了している。審理が終了した以上、当該書記官を排除して審理をやり直す前提を欠くため、却下裁判を取り消す実益はすでに失われていると評価される。
結論
本案事件の判決宣告後においては、書記官忌避申立却下の裁判の取消しを求める申立ては法律上の利益を欠き、不適法である。
実務上の射程
裁判官の忌避についても同様の法理が妥当し、判決宣告後の忌避申立てや不服申立ては訴えの利益を欠くと解される。答案上では、職権調査事項である「訴えの利益(不服申立ての利益)」の有無を検討する際の根拠として用いる。ただし、判決自体に忌避事由のある者が関与したことによる構成の違法(刑訴法379条等)を上訴理由で争うことは別問題である点に注意を要する。
事件番号: 昭和47(し)50 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避事由である「不公平な裁判をする虞れ」(刑訴法21条)は、審理方式に過剰な便宜供与等の行き過ぎた点があるとしても、そのことから直ちに肯定されるものではない。 第1 事案の概要:付審判請求事件において、裁判所は、弁護士でない請求人らに対しても記録の閲覧謄写を認め、証拠調べに際して請求人でな…
事件番号: 昭和48(し)66 / 裁判年月日: 昭和48年10月8日 / 結論: その他
一 訴訟手続内における審理の方法、態度などは、それ自体としては裁判官を忌避する理由となしえない。 二 公判期日前の打合せから第一回公判期日終了までの裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権の行使の不当を理由とする忌避申立は、本件のような事情(判文参照)のもとにおいては、訴訟遅延のみを目的とするものとして、刑訴法二四条により却下す…
事件番号: 昭和46(し)57 / 裁判年月日: 昭和46年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者の事件の審理に関与した裁判官が、別の共犯者の事件を担当することは、憲法37条1項が保障する不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえず、違憲ではない。 第1 事案の概要:被告人は、自身の事件の審理を担当する裁判官が、以前に当該事件と共犯関係にある他の被告人の事件の審理に関与していたことを理由…
事件番号: 昭和38(し)33 / 裁判年月日: 昭和39年3月12日 / 結論: 棄却
刑訴法第二二条は、憲法第三七条第一項に違反しない。