一 訴訟手続内における審理の方法、態度などは、それ自体としては裁判官を忌避する理由となしえない。 二 公判期日前の打合せから第一回公判期日終了までの裁判長の訴訟指揮権、法廷警察権の行使の不当を理由とする忌避申立は、本件のような事情(判文参照)のもとにおいては、訴訟遅延のみを目的とするものとして、刑訴法二四条により却下すべきものである。
一 審理の方法態度と裁判官忌避 二 裁判官の忌避申立につき簡易却下が相当であるとされた事例
刑訴法21条1項,刑訴法24条
判旨
裁判官の忌避は、事件の手続外の要因により公平な審判を期待できない場合に限定される。したがって、訴訟手続内の訴訟指揮等に対する不服を理由とする忌避申立ては、原則として「訴訟の遅延のみを目的とするもの」として刑訴法24条1項による簡易却下の対象となる。
問題の所在(論点)
裁判官による訴訟手続内の訴訟指揮や法廷警察権の行使に対する不服を理由とする忌避申立てが、刑訴法24条1項の「訴訟の遅延のみを目的とするもの」として、受訴裁判所による簡易却下の対象となるか。
規範
裁判官の忌避制度(刑訴法21条)の目的は、裁判官が当事者と特別の関係にある等、事件の手続外の要因により公平・客観的な審判が期待できない場合に当該裁判官を排除することにある。したがって、訴訟手続内における審理の方法・態度は、それだけでは直ちに忌避の理由とはならず、異議・上訴等の不服申立てにより救済を求めるべきである。かかる手続内の事項を理由とする忌避申立ては、受け入れられる可能性が全くなく、訴訟の遅延と裁判の権威の失墜をもたらすものであるから、刑訴法24条1項にいう「訴訟の遅延のみを目的とするもの」と解するのが相当である。
重要事実
被告人に対する傷害事件の審理において、裁判長が在廷命令を無視して退廷した弁護人の再入廷を許可せず、必要的弁護事件であるにもかかわらず弁護人不在のまま審理を進めた。これに対し弁護人らが、裁判長の訴訟指揮権・法廷警察権の行使が不当であり予断と偏見に満ちているとして忌避を申し立てたところ、第一審は刑訴法24条により簡易却下した。これに対し原審が、弁護人らの立場からすれば不当な訴訟指揮と判断される余地があり、遅延目的が明らかではないとして決定を取り消したため、検察官が抗告した。
事件番号: 昭和31(し)34 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が刑事訴訟法312条2項に基づき予備的訴因の追加を命ずることは、審理が相当程度進捗した段階で行われる限り、直ちに不公平な裁判をするおそれがあるとは認められず、裁判官の忌避事由(刑訴法21条1項)を構成しない。 第1 事案の概要:傷害致死等被告事件の第一審において、裁判所(合議体)が主たる訴因…
あてはめ
本件忌避申立ての理由は、公判期日前の打合せや第一回公判期日における裁判長の訴訟指揮および法廷警察権の行使の不当をいうものであり、まさに「訴訟手続内」の審理のあり方に対する不服にほかならない。このような理由は、忌避制度が本来予定する「手続外の要因」に基づくものではなく、忌避理由として認められる余地は全くない。それにもかかわらず申し立てられた本件は、客観的にみて訴訟の遅延と裁判の権威の失墜をもたらす以外に結果はなく、主観的な意図のいかんを問わず、法24条1項の「訴訟の遅延のみを目的とするもの」と認められる。
結論
本件忌避申立ては訴訟遅延のみを目的とするものであることが明らかであり、刑訴法24条1項により却下すべきである。原決定は忌避理由の解釈を誤り、事実を誤認したものであり、取り消しを免れない。
実務上の射程
忌避申立てに対する「簡易却下(24条)」の可否を論じる際のリーディングケースである。答案では、忌避の趣旨を「手続外の要因」に限定する論証から、訴訟指揮への不服が24条の「訴訟遅延目的」に直結することを導く際に活用する。被告人側の主観的意図よりも、申立理由の客観的な法的性質を重視する点に特徴がある。
事件番号: 昭和44(し)53 / 裁判年月日: 昭和44年9月11日 / 結論: その他
一 刑訴法二六二条以下に規定するいわゆる付審判請求事件における被疑者は、同法二一条一項により、裁判官忌避の申立をすることができる。 二 忌避申立の対象とされた裁判官が、当該事件の審理を担当する裁判所の合議体の構成を離れたときは、特別抗告の論旨につき判断するまでもなく、同裁判官に対する忌避申立を却下した第一審決定およびこ…
事件番号: 昭和47(し)51 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 棄却
本件付審判請求事件の審理を担当する裁判所が示した審理方式(判文参照)は、裁量の許される範囲を逸脱している疑いを免れないけれども、そのことはただちに右裁判所を構成する裁判官らを忌避する事由とはなりえない。
事件番号: 昭和47(し)78 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官が不公平な裁判をするおそれがあるとは認められない場合、刑事訴訟法24条1項に基づく忌避の申立ては却下されるべきである。本決定は、具体的な記録に照らし、憲法37条1項等の違反がないことを確認したものである。 第1 事案の概要:申立人は、背任被告事件の担当裁判長である金子裁判長に対し、不公平な裁…
事件番号: 昭和48(し)31 / 裁判年月日: 昭和48年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法上、裁判官の忌避申立却下決定に対する準抗告棄却決定については不服申立の規定が存在しないため、これに対する即時抗告は不適法である。 第1 事案の概要:申立人は、裁判官忌避申立却下決定に対する準抗告を申し立てたが棄却された。これに対し、さらに即時抗告を申し立てたところ、原審が不適法として棄却…