山林に係る事業所得の必要経費と財産増減法
所得税法21条1項,所得税法27条,所得税法32条1項,所得税法32条2項,所得税法37条
判旨
財産増減法を用いて逋脱所得金額を算定する場合、期首・期末の資産残高の調整を通じて、譲渡された山林に係る必要経費を適切に控除した所得金額を算定しなければならない。ただし、資産評価の方法が実質的に必要経費の調整と同一の結果をもたらし、被告人に不利益を及ぼさない場合には、厳密な調整を欠いても正義に反する違法とはいえない。
問題の所在(論点)
財産増減法を用いて所得税法違反(逋脱)の所得金額を算定する際、必要経費(所得税法37条2項)に関する期首・期末資産の調整を欠いた認定は、判決を破棄すべき違法(刑訴法411条1号等)に当たるか。
規範
所得税法37条2項に基づき、事業所得に該当する山林の譲渡所得を算定する際は、植林費、取得費、管理費等の必要経費を算入しなければならない。財産増減法を用いる場合、①譲渡された山林に関して前年までに支出された経費については期首資産の増加による調整を加え、②当年中に譲渡されなかった山林に関して当年中に支出された経費については期末資産の増加による調整を加える等の手法により、必要経費を控除した所得額を算定すべきである。
重要事実
被告人は営林署等から立木を買い入れ、伐採して原木として譲渡する事業を行っていた。第一審及び原審は、逋脱所得金額の認定に際して財産増減法を用いたが、山林の必要経費に関する期首・期末の資産調整を厳密に行わなかった。具体的には、原審は「必要経費の算定方法は棚卸資産の評価方法と同一に帰着する」と判示し、特段の調整をせずに認定を維持した。記録上、被告人の経費の大部分は取得費、伐採費、運搬費であった。
あてはめ
原審が厳密な調整を怠った点は所得税法37条2項の解釈を誤ったものである。しかし、本件の資産評価方法によれば、期首・期末に存在する立木や原木の評価額に取得費等が含まれており、実質的に資産調整を行ったのとほぼ同一の結果が生じている。また、土場保管の原木評価に利潤が含まれる可能性はあるが、在庫量の減少により被告人に有利(所得減少方向)に作用している。調整が必要な残余の伐採費・運搬費も僅少であり、被告人に実質的な不利益はない。
結論
厳密な調整を欠いたまま逋脱所得金額を認定した点に法令解釈の誤りはあるが、その違法をもって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。上告棄却。
実務上の射程
財産増減法による所得認定の適法性・妥当性を争う際の指針となる。実務上、厳密な会計上の調整を欠いていても、採用された評価手法が実質的に経費を反映しており、かつ被告人に不利益な結果(過大な所得認定)を招いていない場合には、認定の合理性が維持されることを示唆している。
事件番号: 昭和54(あ)505 / 裁判年月日: 昭和55年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所得税法違反等の事案において、財産増減法による所得金額の認定は、他により合理的な所得金額の認定方法がない場合には、許容される適法な認定手法である。 第1 事案の概要:被告人が所得税法違反等に問われた事案において、原審(東京高裁)は、被告人の期首・期末の財産状態の比較から所得を算出する「財産増減法」…