検察官調書の任意性を肯定した原判断が是認された事例(反対意見がある)
刑法197条1項,刑法198条,刑訴法319条
判旨
不当な心理的・肉体的圧迫を与える取調方法によって得られた自白は、任意性に疑いがある。もっとも、不当な先行処分があった場合でも、その後の検察官による取調べが適正に行われ、先行処分の不当な影響が遮断されていると認められるときは、供述の任意性が肯定される。
問題の所在(論点)
不当な取調方法(壁に向かっての正座等)によって得られた警察段階の自白が、その後の検察官に対する供述の任意性にどのような影響を及ぼすか。特に、先行する不当な取調べによる心理的強制が継続していると判断されるべきかが問題となる。
規範
自白の証拠能力が認められるためには、その自白が「任意にされたものである疑いがない」こと(刑訴法319条1項)を要する。判断にあたっては、取調べの態様(時間・場所・方法)、被疑者の属性(年齢・健康状態)、精神状態、先行する不当な取調べの影響の有無・程度等を総合考慮し、虚偽自白を誘発するおそれや人権侵害の有無から判断する。
重要事実
60歳を超え高血圧の持病がある被告人Bは、贈賄容疑での逮捕後、警察官から「無欲」と書かれた紙を貼った壁に向かって数時間にわたり正座を強いられる等の不当な取調べを受け、自白に至った。その後、同一警察署内の代用監獄に拘束されたまま、警察官の取調べと並行して検察官による取調べが行われ、被告人は検察官に対しても同様の自白供述を行った。第一審及び原審は、検察官調書の任意性を肯定して有罪判決を維持した。
あてはめ
反対意見では、壁に向かう正座の強制等は「一種の拷問」であり、高齢で疲労していた被告人に絶望的・心理的強制を与えたとする。これに対し多数意見(決定)は、原判決の判示する検察官の取調状況や内容等の諸事情を検討。検察官自身の取調べには不当な点はなく、調書内容も詳細かつ具体的であり、先行する警察官の不当な取調べによる影響は実質的に解消・遮断されていると評価した。また、当該調書を除外しても他の証拠により犯罪事実が優に認定できることも指摘した。
結論
被告人Bの検察官に対する各供述調書の任意性を肯定した原判断は首肯しうる。よって、当該調書の証拠能力を認め、有罪とした原判決に誤りはない。
実務上の射程
自白の任意性が争われる事案において、先行する不当な取調べの影響(汚染)が後続の自白に及んでいるかという「影響の遮断」の論点で引用される。本件は反対意見が詳細であり、答案上は取調方法の違法性が強い場合に、いかなる事情(取調官の交代、適正な告知、供述内容の具体性等)があれば任意性が回復するかを論じる際の対比材料として有用である。
事件番号: 昭和27(あ)4491 / 裁判年月日: 昭和29年1月26日 / 結論: 棄却
論旨は被告人が当時病状にあつたことを主張し、記録上その事実は認められないことはないが、そうだとしても、単にそれだけのことで前記警察における供述が強制、拷問、又は脅迫によるものと即断することはできない。
事件番号: 昭和58(あ)1324 / 裁判年月日: 平成元年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官が取調中を理由に弁護人の接見を一時的に拒んだとしても、直前に別の弁護人と接見し、かつ前日までにも頻繁に弁護人らと接見していた等の事情があれば、当該自白の任意性は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Bは、詐欺及び恐喝被疑事件で勾留中、余罪である贈収賄の取調べを受けていた。昭和41年12月2…